研究課題/領域番号 |
20H03628
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
河合 辰哉 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (70597822)
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研究分担者 |
兵藤 文紀 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 特任准教授 (10380693)
松尾 政之 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (40377669)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射線 / 腫瘍内代謝 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
グリオーマ同所移植モデルマウスモデルを用いてDNP-MRI技術を併用した13C-MRIにより取得した13C-ピルビン酸/乳酸画像で認められた放射線照射後6時間、16時間での一過性乳酸産生上昇にLDHA発現レベル上昇の関与があることを前年度までに発表した。今年度は他の放射線応答代謝変動を解析すべく、培養細胞系を用いて網羅的なタンパク定量解析を行った。ここではより実際の固形腫瘍に近い環境を創出すべく、グリオーマAM38株を使用したspheroidとよばれる細胞の凝集塊を培養系として用いた。また今年度はLDHAに加え、monocarboxylate transporter等の糖代謝に関わるタンパクに加え、低酸素応答遺伝子HIF1αおよび炭酸脱水素酵素CA9、複数の脂質代謝関連遺伝子、さらに近年放射線感受性との関連が示唆されているHSP90を中心に発現定量を行った。これまでの研究の放射線応答の時間的経過から、6Gy照射後のサンプリング時間を30分、2時間、6時間として、比較的早いタイミングでのダイナミックな変動の解析を行った。結果としては、少なくとも培養細胞系において照射による発現の変動は対照群との比較において有意な差は認められなかった。一方、EPRI(electron paramagnetic resonance imaging)を用いた酸素マッピング画像による照射後の酸素分布変動解析については、米国国立衛生研究所で行った研究を継続した。ここでは技術的利便性から皮下異所移植もでるが用いられたが、3Gy、10Gy、20Gy照射後6時間から24時間後に低酸素領域の拡大、および数分のサイクルで酸素化、低酸素が変動する、いわゆるcycling hypoxia領域の変化が認められた。この結果については現在論文を学術誌に投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
グリオーマ固形腫瘍における実験では放射線照射後に解糖系に関わる遺伝子の変動が示唆されたものの、spheroidを用いた実験では同様の結果は得られなかった。さらに今回は同様の培養細胞系を用いてCA9、HIF-1α、HSP90の発現についても解析を行ったが、いずれもタンパクレベルでの放射線応答は乏しかった。前年度に固形腫瘍を用いて施行したマイクロアレイ解析では少なくともmRNAの一過性上昇が示されており、今後はより生理的な腫瘍環境に近い固形腫瘍を用いる必要性が改めて示唆された。EPRIによる放射線照射後の酸素分布については、これまでの基礎研究で提唱されている、放射線による血管傷害や一過性閉塞による照射後の酸素分布変動が画像的にも示された。この結果は、腫瘍内代謝の変動を細胞内の酸素分布の変動と関連づけて評価するための道筋となると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者施設である端画像開発講座(岐阜大学医学部)の協力の下に前年度に予定していた、DNP-MRIを用いた13C代謝画像の取得、解析はSARS-CoV2蔓延による感染対策上先送りされたが、今年度は施設間の人的交流がより円滑となったためこれを再開する予定である。また今年度までに、培養細胞系を用いた解析では細胞内代謝に関連する腫瘍内環境の放射線応答は実際の生理的条件(血流、低酸素領域の分布)を満たしていないことが示唆されたため、動物実験を再開する必要性が再認識された。EPRIとDNPによる酸素分布-腫瘍内代謝のより強固な関連を示すためには酸素マッピングを頼りにした適切な腫瘍サンプリングが欠かせないと考えられる。一方、同所移植した脳腫瘍にはEPRIにおける酸素プローブである薬剤OX063が血液脳関門により腫瘍内に分布しない可能性が示唆されており、同所移植の代わりに異所移植皮下腫瘍モデルを使用する予定である。今年度はこれらDNP-MRIおよびEPRI画像の解析を行うとともに、腫瘍のサンプリングによる代謝関連タンパク等の応答因子の変動、照射による治療効果の解析を行い、研究目標であるmetabolism targeted radiotherapyの開発への足がかりとなる結果を得たいと考えている。
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