研究課題
巨脳症患者を対象としたパネル解析を引き続き実施し、2021年度は9例に実施した。その結果、PTEN遺伝子変異を2例、PIK3CA変異モザイク例を1例同定した。患者情報として臨床情報とMRIを収集し、遺伝子変異情報と共にデータベースを更新した。脳オルガノイドを用いた実験では、正常iPS細胞から遺伝子編集を行い、PNPLA8、SZT2、MYCNの機能喪失型変異を導入し、脳オルガノイドの作成を行った。脳オルガノイドにおいては皮質発生を再現することができた。特に、PNPLA8のKO脳オルガノイドについて詳しく検討ができ、脳皮質形成障害の原因として外側ラジアルグリア(oRG)の分裂能が低下していることを明らかにした。さらにその原因としてミトコンドリア機能の障害を明らかにした。これらの実験によりiPS細胞から脳オルガノイドを作成し、脳皮質発生に関する一連の実験を行う実験系を確立した。さらに、ヒト患者からのiPS細胞の作成をPNPLA8およびMYCNに変異を有する患者から行った。PNPNL8患者由来iPS細胞の樹立に成功し、さらに脳オルガノイドを作成し、患者にみられた病態の再現に成功した。さらに、遺伝子改変iPS細胞由来の脳オルガノイドと表現型が共通することを確認した。MYCNについては現在実験が進行中である。モデルマウスとしては引き続き、MYCNの機能亢進型変異および機能喪失型変異マウスについての解析を行った。機能亢進型モデルマウスではヒト患者で見られた巨脳症が再現され、その原因として胎生期の神経幹細胞の分化と増殖のバランスが乱れることと神経細胞の遊走が関連することを明らかにした。上述した患者由来iPS細胞を用いた脳オルガノイド実験と組み合わせることで、病態の改名の基盤を構築することができた。
2: おおむね順調に進展している
巨脳症患者の遺伝学的解析センターとしての機能を維持しており、全国からの患者解析を安定的に続けている。解析した患者のデータベースは順調に増加しており、我が国における巨脳症解析拠点としての役割を果たしている。iPS細胞から脳オルガノイド作成については、方法論を確立し、本年度は3つの遺伝子についての実験が進行している。iPS細胞由来脳オルガノイドについては、皮質発生の再現ができており、また、遺伝子編集により患者でみられた脳形成障害の再現に成功している。複数の遺伝子変異の解析によりそれぞれの比較検討が可能になっている。さらに、患者由来iPS細胞の樹立に成功したことで、遺伝子編集モデルとの比較検討が可能になり、質の高い実験が可能になった。同じ遺伝子であるMYCNの遺伝子改変マウスモデルとiPS細胞由来脳オルガノイドの二つの実験系を用いて解析を行うことで、互いの欠点を補い、脳発生における遺伝子変異の意義について質の高い成果を上げることができている。
本研究は、巨脳症患者の集積と遺伝学的解析およびデータベースの作成、脳オルガノイドを用いた脳発生の解析と遺伝子改変マウスを用いた解析を統合的に実施することで、巨脳症の病態を解明し、治療法開発のシーズを得ることを目的としている。それぞれのパートにおいて、着実な成果を上げることができており、引き続きこれらの研究を継続する。iPS細胞から脳オルガノイドを作成して行う病態解析が研究の中心であるが、複数の遺伝子に関して作成に成功しており、病態の再現に成功したことで、研究の基盤は既に確立した。2021年度は遺伝子の数を3つに増加して解析を実施している。これらの研究をさらに推進し、特に新規巨脳症遺伝子を同定することができれば、これらの系を用いてその病態の検討を実施する。MYCNについてはマウスモデルと脳オルガノイドを用いることで多角的にその脳発生における役割を解析することができ、MYCN機能亢進変異モデルの作成は世界で私たちのグループのみである。この優位性を生かして、詳細な病態解析と治療法の開発を推進する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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