本来は非造血環境である中枢神経系から再発する白血病細胞は、骨髄以外でも増殖・生存できる特性を獲得していると考えられる。この白血病の骨髄非依存的な生存を可能にする分子遺伝学的基盤は何か?という問いに答えるべく、本研究では骨髄外に再発・浸潤した白血病の検体のゲノム解析を通じ、その分子病態を明らかにすることを目指している。 全エクソン・全ゲノム解析を実施した11例の骨髄外白血病の検体から、そのうち5例に共通した遺伝子Xにゲノム異常を検出した。この遺伝子Xは血球の生存や活性化に関与する遺伝子であり、検証コホートとして独立の検証用コホートである小児ALL95例でこの遺伝子の異常と予後との関連を探索したところ、遺伝子Xの異常を持つことが有意に高い再発率と相関していることを見出した。この、高い再発率は、他の研究グループからの報告に基づく公開データからも再現することができた。 また、新たに全ゲノム解析済の小児ALLのデータから、8例において同様に遺伝子Xの部分的な欠失を検出した。このような構造異常が一定の割合で生じていることが確認できた。 遺伝子Xの機能異常を再現することを目指し、発現の制御を行うベクターをクローニングした。細胞株の動物移植モデルにて、中枢神経に移行する細胞株と移行しない細胞株を確認し、それぞれにおいてin vitroで中枢神経系の環境を再現したうえで遺伝子発現の誘導を行うことができている。遺伝子Xの機能異常の有無により、細胞障害性抗がん剤の暴露に対する生存反応に有意な差が出ることを確認でき、機能的な観点からも再発に寄与することを示すことができた。髄外再発の基盤となるゲノム異常は、単なる細胞増殖をもたらすものではなく、化学療法剤の暴露に対する抵抗性が主体であることが明らかになった。
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