研究課題/領域番号 |
20H03654
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所) |
研究代表者 |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 免疫部門, 部長 (60314415)
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研究分担者 |
西海 史子 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 免疫部門, 流動研究員 (60599596)
呉 恒寧 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 免疫部門, 研究技術員 (80648139)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 流早産原因細菌 / ウレアプラズマ / 病原性解析 / 細胞毒性因子 |
研究実績の概要 |
流早産原因細菌ウレアプラズマの新規病原因子を同定し、その機能を解析した。以前の我々の報告で、ウレアプラズマは宿主細胞内にエンドサイトーシスで取り込まれた後、宿主の分解系であるオートファゴソーム膜を障害し細胞内での生存を高めていた。ウレアプラズマ細菌は独自の進化を遂げてきた為、未だにゲノムの3割ほどの遺伝子の機能は不明である。酵母を用いた液胞輸送をスクリーニングする系を用いてウレアプラズマの機能未知遺伝子からウレアプラズマ空胞化因子(UpVF)を同定した。興味深いことにUpVFはHeLa細胞に発現させると、空胞を形成し多くは細胞死を引き起こす。ところが、一定の細胞は生き残り、その後細胞増殖が増していく。また、ウレアプラズマは宿主細胞内で小胞体に局在していた。そこで小胞体(ER)ストレス経路を調べたところ、ATF4、CHOP、XBP1を遮断していた。次にヒト細胞の全マイクロRNA(miRNA)の変化を調べた結果、UpVF発現細胞株では小胞体ストレスを遮断するmiR-211、-214の発現上昇を認めた。これらのmiRNAの阻害を行ったところ、アポトーシスが誘導されたことから、UpVFはこれらのmiRNAを介して宿主の細胞死を制御していることが示された。全合成したゲノムから構成された人工ゲノム細菌ミニマルセル(JCVI-syn3.0B)にウレアプラズマの遺伝子を組込む方法を開発した。以前報告した病原因子MBAとUpVFの両方を同時に発現させたミニマルセル(Syn-MBA-UpVF)を培養ヒト細胞に感染させたところ、感染6時間後には、感染細胞は非感染コントロールに比べて細胞表面全体が不正で膜の障害が起きていた。人工マイコプラズマ科細菌を用いてUpVFの病原性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウレアプラズマはマイコプラズマ科に属する最小細菌である。これまで遺伝子改変技術が応用できていない生物であるため、機能未知遺伝子の多くは機能を確認できていなかった。今回、世界で初めてウレアプラズマを人工合成細菌(ミニマルセル)に導入することに成功し、マイコプラズマ科人工細菌の中で、ウレアプラズマの機能を解析することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
ウレアプラズマ等マイコプラズマ科細菌は通常の生物では終止コドンであるTGAはトリプトファンをコードしている。従ってレコンビナント蛋白質を作製する際に、他の生物、例えば大腸菌や、ヒト細胞株などに、ウレアプラズマの標的遺伝子を導入しても発現できないことが多い。マイコプラズマ科細菌は、難培養性であるのに加えて、この遺伝学的な操作の煩雑さがその解析を遅らせて来た。加えて、ウレアプラズマには遺伝子改変技術そのものが無かった。我々の成果は我が国における合成生物学の幕開けとなると同時に、これまで不明とされてきたウレアプラズマの遺伝子解析が、ミニマルセルを応用することで可能となった。また、ミニマルセルは、最低限の生存に必要な遺伝子のみで構成されている為、宿主細胞への接着性が確認されていなかった。そこで、我々は以前報告したウレアプラズマの主要な外膜リポタンパク質であるMBA遺伝子をミニマルセルに導入したところ、ミニマルセルはHeLa細胞に接着した。この技術を応用して、MBAと宿主細胞とのかかわりについて解析を行う。また、ウレアプラズマの機能未知遺伝子の機能の解明につなげる。さらには、生殖始原細胞や、卵母細胞などの生殖系列細胞に対する病原性を随時解析していく予定である。
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