Kitl遺伝子とGpr30遺伝子を発現している細胞群を選択的に標識可能なKitl-CreERTマウスとGpr30-rtTAマウスを新規に作成し、系譜追跡および変異型Ras遺伝子誘導実験を行った。 Kitl+細胞は時系列的に分化・増殖を繰り返し、腺管を標識し続けたことから幹細胞を含む細胞群と考えられた。また、Kitl+細胞に変異型Rasを誘導すると腸上皮化生が引き起こされたことから、Kitl+幹細胞は前癌病変の起源となりうることが示された。対照的に、Gpr30+主細胞は分化・増殖を行うことなく、炎症再生を惹起しても脱分化を示すことはなかった。さらに、Ras遺伝子の誘導をもってしてもGpr30+主細胞は前癌病変を形成せず、逆に細胞競合により腺管から消失した。この細胞競合はPDK経路依存的であり、PDK阻害薬の投与によりRas変異主細胞の上皮からの消失が抑制された。 幹細胞の発癌過程における増殖・進展は、ガストリン依存性に前庭部では抑制的に、胃体部では促進的に制御されていることがCCK2R-CreERTマウスの解析でわかった。また、Wnt5aはFzd5を介してMist1陽性幹細胞の増殖を促進していることがわかった。 浸潤癌モデルの解析では、スキルス胃癌を発症するTff1-Cre;LSL-p53R172H;Cdh1F/F;Tgfbr2F/Fマウスを用いたシングルセル解析を施行した。本マウスの腫瘍細胞では正常では発現しないLRG1・CD38が高発現し、間質にはLRG1の受容体CD105を発現する免疫細胞・線維芽細胞・内皮細胞が出現していた。抗CD105抗体、抗CD38抗体の投与により、スキルス胃癌病変の縮小を認めたことから、これらは間質リモデリングを介した腫瘍促進作用があると思われる。
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