挿入変異型トランスポゾンを用いた肝癌ドライバー遺伝子の網羅的スクリーニング系により同定した遺伝子候補の中から、がん抑制遺伝子として機能していることが想定される遺伝子群について個別の検証を実施した。中でも原発性肝癌の一つである肝内胆管癌に関与する遺伝子としてTraf3を同定した。この遺伝子を肝臓特異的に欠損させたマウスでは肝内胆管の増生が認められた。また、肝内胆管癌のドライバー遺伝子であるKras活性化マウスやPten欠損マウスにおいてTraf3を欠損させると早期に肝内胆管の異常増殖が生じ、肝内胆管癌を発症した。この表現型はTraf3を肝内胆管細胞で欠損させたマウスでは認められない一方、肝細胞で欠損させたマウスで認められた。また細胞系譜解析の結果、この肝内胆管癌は肝細胞から胆管細胞への分化転換を介して発症することを明らかにした。さらにこの発がん機構の責任分子について探索を行い、Traf3欠損によるNIK活性化がその原因に関わっていることを明らかにした。肝内胆管癌切除検体を用いた解析の結果、TRAF3発現低下やNIK発現上昇を認める症例は病気が進行しており、外科切除後の予後が不良であった。NIK阻害剤は肝内胆管癌細胞株の増殖を有意に抑制し、またゼノグラフトモデルにおける腫瘍形成を抑制した。以上から、Traf3/NIKを介した新たな肝内胆管癌発症機構を明らかにし、Hepatology誌に論文を掲載した。また、ハイスループットな遺伝子検証については引き続き継続をしている。
|