研究実績の概要 |
心臓のエネルギーと組織を構成する分子はほとんどが血液中を流れる栄養分に由来することが半世紀前から示されたことから内因性の脂肪合成(endogenous lipogenesis)の重要性についてはこれまでほとんど明らかにされてこなかった。私たちは脂肪酸伸長酵素Elovl6の全身欠損マウスおよび心臓特異的欠損マウスを用いて実験を行った。リピドミクス解析にてElovl6欠損マウスで、C16:0の増加とC18:0の減少が認められた、興味深いことに圧負荷を加えた場合、野生型ではC20:4の増加、C22:6の減少が認められたが、Elovl6欠損マウスではこうした変化は見られず、sham群と同等であった。さらにElovl6欠損マウスでは、肥大の分子マーカーであるANP、BNP、TGFb, CTGF,の発現上昇が見られず、マイトファジーを促進するparkinの発現が亢進した。したがって、Elovl6による内因性脂肪酸合成は膜脂質組成を肥大に対して抵抗性を持つn-3優位型組成に変換させることが明らかになった。また、2022年度は脂肪酸酸化に関する研究も行った。FGF21の欠損マウスの解析を行った。その結果、従来の報告と異なりFGF21欠損マウスでは血中ケトン体の濃度が上昇した。そして、ケトン体濃度と有意に正の相関を示してPPARa, PGC-1aの発現量が増加した。さらにcatalase, Ucp2, Ucp3など抗酸化ストレス分子の発現も見られた。したがって、ケトン体とFGF21は協調して心臓エネルギー産生と抗酸化反応を増加させる効果を持つことが明らかになった。
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