研究実績の概要 |
2022年度はマウスを用いて主にin vivoの実験を行った。心臓の絶え間ない収縮と弛緩の活動のためのエネルギーの90%以上はエネルギー基質の酸化的なリン酸化により、中でも脂肪酸酸化(FAO)がそのうち70%ほどを占める。FAOの調節における重要な代謝メカニズムはPGC-1a/PPAR (peroxisome proliferator-activator)経路とmTOR経路の活性制御である。本研究にて、FGF21欠損マウスの心臓では、野生型に比してPGC-1a/PPARaとmTORの発現、および、抗酸化遺伝子であるNox4, catalaseおよびUcp2の発現が有意に上昇することを見出した。Pearson's correlation解析で、これらの遺伝子発現の上昇は、血清ケトン体濃度の上昇と有意に相関していた。したがって、心臓におけるエネルギー産生はケトン体によって制御される可能性がある。ケトン体は従来、心臓においてはFAOが十分に行われずエネルギー不足の病態時に付加的なエネルギー基質として使用されると考えられてきたが、心臓においても他の臓器と同様に、シグナル分子としての役割をもつと示唆された。また、FGF21欠損マウスでは野生型に比してケトン体産生が有意に亢進していることはFGF21がケトン体産生に必須な因子であるとの過去の報告と異なる結果である。われわれの結果と同様のデータは最近、他の施設からも報告されており、ケトン体産生におけるFGF21の役割はたとえあったとしても必須ではないと考えられる。むしろ、FGF21は心臓での酸化ストレスを適切に誘導する上で重要な因子であろう。
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