重症心不全患者は世界中で増えているが、有効な内科的治療法は限られている。心臓は全身に血液を送る左心室と、肺に血液を送る右心室に分かれるが、これまでは心不全における重要性は左心室が中心と考えられてきた。右心不全は右心室の絶対的/相対的収縮不全や拡張障害に伴う拍出不全であり、全身の鬱血、肝障害、腎障害など様々な臓器障害を生じる。右心不全は肺高血圧症などの純粋な右心不全疾患の予後と相関する重要な因子であることは広く知られていたが、さらに右心不全はあらゆる左心不全に続発して発症し左心不全の予後を規定する重要な因子でもあることも知られてきた。しかし右心不全を焦点に当てた研究は進んでおらず特異的な治療方法も皆無である。 本研究では右心不全の発症機序の解明と治療方法の開発を目的とする。右心室と左心室の分子生物学的な差異に焦点をあて、マウス右心室、左心室、心室中隔を各々分取し、網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、右心室や左心室には、各々特徴的な遺伝子発現を呈していた。さらにgene ontology解析等を行い、右心室の特徴を定義している分子生物学的・細胞生物学的機能に着目した。その結果、免疫に関わる経路が右心室で特徴的に活性化していることが示唆された。同経路の右心不全における役割を明らかにするために、マウス右心不全モデルを作成した。肺動脈主幹部に狭窄手術を行うことにより右心室に特異的に圧負荷をかけることで、術後約1~2週間で右心不全に至るモデルになることを確認した。同モデルにおいて、右心不全において先述の経路はさらに活性化することを見出し、同経路が右心不全発症・増悪に関与していることが想定された。同経路のin vivoにおける役割を明らかにするために、同経路に関わる各種分子のノックアウトマウスを作成し機能解析を行った。
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