研究課題
本研究では、研究期間全体を通じて傷害応答による細胞内コレステロールの増加が慢性炎症を誘導する分子機序を、①細胞 ②組織 ③個体に及ぼす効果を階層ごとに捉え、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。昨年度までに、細胞レベルで細胞内コレステロールの増加が炎症応答を促進するメカニズムを解明すべく検討を行った。その結果、TLR4シグナルの伝達に必須のMyd88分子がコレステロールを結合するCRACドメイン配列を有し、コレステロールを結合して活性化することを見いだした。さらにコレステロール結合領域に変異を加えたマクロファージは、炎症応答が減弱していたことから、細胞内コレステロールを調節することによってマクロファージの炎症応答を制御できる可能性があると考えられた。本成果は、動脈硬化症をはじめとした慢性炎症性疾患の治療法として応用できる可能性を示している。今後は、治療法への応用を主眼においた研究を継続する計画である。
2: おおむね順調に進展している
令和2年度は新型コロナウイルス感染症による影響で研究室が一定期間閉鎖されるなど、研究が思うように進まなかった。一部の研究費を令和3年度に繰越して研究を継続し、これまでの研究でマクロファージのコレステロール代謝が炎症応答を制御する重要な要因であることをつきとめ、そのメカニズムの一部を説明することができた。
今年度は、前年度までに見出した「細胞内コレステロールによるマクロファージ機能の制御」機序を、動脈硬化の治療法として応用できるかどうかを、動脈硬化モデルマウス(Ldlr欠損マウス)を用いて検証する。具体的には、細胞内コレステロールの排出を促進する新規超分子PRXを用いる。昨年度中にPRXの投与量や投与方法を決定するための予備検討を実施した。本年度はこの結果を踏まえて、PRXの投与によりプラークの形成やマクロファージの浸潤がどのように変化するかをを明らかにする。また、血清脂質への影響を解析する。さらに、ヒト単球においてもコレステロール代謝の調節による機能制御が可能かどうかをin vitroで検証する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
Sci Rep
巻: 12 ページ: 1377
巻: 11 ページ: 286
10.1038/s41598-020-79453-1
J Nippon Med Sch
巻: 87 ページ: 310-317
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 118 ページ: e2102895118
10.1073/pnas.2102895118
The Journal of Biochemistry
巻: 169 ページ: 387-394