研究課題
本研究の目的は難治性呼吸器疾患動物モデルを作成し、活性硫黄分子種(reactive sulfur species: RSS)の呼吸器疾患における役割を明らかにするために、RSSの産生酵素であるCARS2遺伝子欠損マウスやRSS供与体を用いて、RSSが病態に及ぼす作用を個体レベルで明らかにすることである。さらにCOPD患者の種々の病態を細胞レベルで詳細に検討する。またCOPD患者の肺組織・細胞及び喀痰を採取し、肺細胞内外におけるCARS2の発現やRSS含有量を測定する。大規模COPD患者コホートを用いて、RSSの気道における産生量と臨床病態との関連を前向き研究で明らかにする。本研究は具体的には以下の4つの研究パートから成る。研究1) RSSのCOPD病態における個体レベルでの検討:RSSの産生酵素であるCARS2遺伝子欠損マウスを作成し、種々のCOPDモデルを作成し、検討を行った。CARS2遺伝子欠損マウスはCRISPR-Cas9法を用いて作成した。ホモ欠損は胎生致死であることからヘテロ欠損マウスを作成し、肺におけるRSSの産生量が野生型と比較して約半量であることを確認している。今後は、肺気腫の程度を形態学的かつ機能的に検討する。研究2) RSSのCOPD病態における細胞レベルでの検討:肺構築細胞にsiRNAを用いてCARS2の発現を抑制し、タバコ抽出液による炎症性サイトカインの産生、酸化ストレスマーカーの定量、細胞老化について検討を行った。研究3) 気道におけるRSS産生量と臨床病態との関連に関する研究:COPDコホートを用いた検討は、新型コロナ感染症の影響を受け、気道検体採取が滞っている。今後も気道検体の採取は感染管理の観点から困難が予想される。研究4) RSSの間質性肺炎病態における個体レベルでの検討:ブレオマイシンを用いた肺線維症モデルを作成し、検討を開始している。
2: おおむね順調に進展している
各研究項目ごとに見てみると、研究1) RSSのCOPD病態における個体レベルでの検討では、遺伝子欠損マウスおよびCOPD病態モデルの作成と評価という点で予定以上に順調に推移している。少数例での検討では、CARS2+/-マウスではCOPD病態モデルにおいて気腫形成が悪化していることを確認している。今後はさらに個体数を増やし、確認を行う予定である。さらに酸化ストレスマーカーや炎症性サイトカインやケモカイン、タンパク分解酵素などのCOPD病態関連分子の定量を行う予定である。予備実験では、CARS2+/-マウスにおいてこれらの病態関連分子の過剰産生が生じていることを確認している。研究2) RSSのCOPD病態における細胞レベルでの検討も予定以上のペースで研究が進捗している。siRNAを用いてCARS2の発現を減弱させるとタバコ抽出液による細胞老化や細胞傷害が促進し、炎症性サイトカインなどのメディエーターの産生が増強することを確認している。今後もその機序や細胞内シグナルを含めて検討を進める予定である。研究3) 気道におけるRSS産生量と臨床病態との関連に関する研究に関しては前項で記載した通り、新型コロナ感染症の影響を受け、感染管理の観点から気道検体の採取が困難な状況になっている。今後も同様の状況が続く恐れがあり、この場合は既存検体による少数例での検討に計画を変更する必要があると考える。研究4) RSSの間質性肺炎病態における個体レベルでの検討も予想以上に順調に推移している。予備実験において、ブレオマイシンを用いた肺線維症モデルを作成し、CARS2ヘテロ欠損マウスでは病態の悪化を確認している。研究1, 2, 4に関しては予想以上に順調に進捗しており、研究3は遅れている状況である。以上より、研究全体としては概ね順調に推移していると判断する。
次年度の研究の推進方策を研究細目ごとに示す。研究1) RSSのCOPD病態における個体レベルでの検討:次年度はCARS2+/-欠損マウスにおける肺気腫の程度を病理組織学的あるいは小動物用CTを用いて3次元評価を行う。併せて、小動物呼吸器機能測定器を用いて、種々の呼吸生理学的パラメータを解析する。またRSSの供与体であるglutathione trisulfide (GSSSG)を投与することで気腫形成が抑制するか、種々のCOPD病態関連分子の産生に与える効果について検証を進めていく。研究2) RSSのCOPD病態における細胞レベルでの検討:研究1)と同様に、タバコ抽出液による炎症性サイトカインの産生、酸化ストレスマーカーの定量、細胞老化がGSSSGの投与により回復するかについて検討を行う予定である。またCOPD患者由来肺構築細胞(気道上皮細胞、肺線維芽細胞)を用いてCARS2の発現ならびに細胞内のRSS量について独自のLC-MS/MSシステムによる硫黄メタボローム解析を行う予定である。研究3) 気道におけるRSS産生量と臨床病態との関連に関する研究:COPDコホートを用いた検討は、新型コロナ感染症の影響を受け、気道検体採取が滞っている。このため、当初の研究計画を変更し、既存検体を用いた少数例での前向きコホート研究に切り替える予定である。また、上述したように肺組織検体を用いて細胞内外のRSS含有量と臨床病態との横断的検討に計画を変更する。研究4) RSSの間質性肺炎病態における個体レベルでの検討:次年度もブレオマイシン肺線維症モデルを用いて肺の線維化について形態学的に検討を行う。研究1)と同様にRSS供与体であるGSSSGの抗線維化作用について検討を行う予定である。
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