アレルギーの発症を予防することは、最も重要な医療課題の一つである。我々は先行研究において、皮膚におけるスワブサンプルを用いた非侵襲的メタトランスクリプトーム解析法を確立した。この手法によって、同一個体・同一部位から経時的にRNAサンプルを回収することができ、我々宿主および、皮膚常在微生物叢の遺伝子発現を網羅的に解析することができる。発症前のバイオマーカー探索はアレルギー疾患を予防するための早期介入指標および、新たな介入手法を確立するための足がかりとなりうる。本研究においては、乳児アトピー性皮膚炎(AD)の皮膚細菌叢を経時的に解析することで、生後3日目の皮膚微生物叢の変化が1歳時のADと関連することを見出した。そこで生後3日目のメタトランスクリプトームサンプルをAD発症群、非発症群で比較し、両者で異なる宿主遺伝子発現を検討した。AD発症群特異的に上昇する遺伝子のうち、臨床データと相関の得られた遺伝子に着目した。すると、母体血IgEと遺伝子Xは弱い正の相関を示し、新生児期の角質水分量と遺伝子Xは弱い負の相関を示した。自然発症ADマウスモデル(K5CreStat3f/fマウス)はSPF環境下で同一遺伝型にも関わらず、半数は8から10週齢でTh2型の皮膚炎を発症する一方、半数は未発症のまま経過するマウスでモデルである、既報では無菌下では発症がかなり抑制されることから微生物叢などの環境因子の影響をうけて発症することが想定されている。このマウスの発症前の経時的全層皮膚トランスクリプトームデータを検討したところ、遺伝子Xはヒトと同様AD発症群発症前で高く、週齢が上がるほど非発症群との差が小さい傾向にあることが判明した。ヒトの皮膚とマウスの皮膚で保存された発症前の特徴と考えられる遺伝子Xを同定したことにより、今後阻害薬を用いるなどして、AD発症予防につながる新規治療薬を探索する予定である。
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