研究課題/領域番号 |
20H03712
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
宮崎 泰司 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (40304943)
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研究分担者 |
吉浦 孝一郎 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (00304931)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 骨髄異形成症候群 / ゲノム変異 / 放射線誘発造血器腫瘍 |
研究実績の概要 |
原爆被爆者では、原爆放射線によって骨髄異形成症候群(MDS)の発症リスクが上昇していることを臨床疫学的に報告してきた。本研究では被爆者において放射線被ばくからMDS発症に至る過程での造血細胞のゲノム変異獲得やMDS クローンの推移を、発症までの十年以上の時間軸で解明することを目的として検討を行っている。ヒトの腫瘍でこうした時間経過にそった前向き検体のゲノム解析研究はほとんど報告がなく、放射線誘発という観点のみならず、ヒト造血器腫瘍の発症経過を明らかにできる非常に重要な検討になると考えられる。これまでに、被爆者MDS複数症例において、時間軸に沿った検体について次世代シーケンサを用いたエクソーム解析(Illumina 社HighSeq200)を基本とし、胚細胞系列コントロールが得られる例ではそれと比較し、それが得られない場合には最も古い検体をコントロールとした解析、およびMDSで一定頻度に同定される既報の変異を基にした解析を実施した。これによって長期間におけるクローン性造血の推移を確認することができ、最終的なMDS発症とクローン性造血の消長との関連を示すことができた。また、検体を選択して全ゲノムシーケンスによるクローンの時間的な変化、ゲノム変異における放射線シグネチャーについても解析を進めている。 マウスモデル実験では、二つの遺伝子変異について予定していた基本となる遺伝子改変マウスを得ており、対象遺伝子の変異導入によってマウスで造血異常が見られることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被爆者においてMDS発症に至る造血細胞のゲノム変異獲得やMDS クローンの推移を、発症までの十年以上の時間軸で検討することを目的として検討を行っており、これまでに集積された被爆者MDS複数症例での時間軸に沿った検体について次世代シーケンサを用いた解析において基本となるエクソーム解析(Illumina 社HighSeq200)が終了し、同定された変異については確認のシーケンスも行って時間軸に沿ったクローン性造血の推移を確認できている。様々な被ばく線量の被爆者より最長20年にわたる時間経過に沿った検体が得られており、これらを解析している。現在はさらに情報を得るため全ゲノムシーケンスへと解析を進めており、本研究の中心となる情報が確実に蓄積されてきている。同定されたゲノム変異、コピー数変異には、これまでに我々が報告した近距離被爆者MDSに見られるゲノム変異が含まれている。また、近距離被爆者MDSではDNAメチル化関連遺伝子の変異が少ないことも報告しているが、これについても同様の傾向が見られている。近距離被爆者で血液異常を示していない検体についてもゲノム解析が進んでおり、データ解析の段階まで来ている。被爆者に見られる症状を伴わないクローン性造血がどのような状況にあるのか、データ解析を進めている。マウスモデルも予定していた交配条件によって造血状態の変化がみられることが確認できており、それらの造血細胞についての解析を始めている。
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今後の研究の推進方策 |
原爆被爆者MDSにおける時間軸に沿った検体の解析は、エクソーム解析とそれによって同定された変異の確認が終了しており、さらに全ゲノムシーケンスとその解析を実施する。それらの結果を得て、時間軸に沿ったクローン性造血の推移とMDS発症についての統合的なデータ解析を行い、結果の論文化を開始する。 血液異常を示さない近距離被爆者血液検体解析もゲノム変異同定は終了しており、非被爆者検体をコントロールとした同様のゲノム変異解析を行い、両者を比較する。これによって近距離被爆者においてクローン性造血、いわゆるCHIP (clonal hematopoiesis of indeterminate potential)がどの程度見られるのか、変異が同定された遺伝子に特徴が見られるのかについて検討し、論文化へと進める。 マウスモデル実験では、造血異常を示すマウスにおいてどのポイントで造血細胞の発現解析を行うのかを決定し、同時期の未分化造血細胞を対象としてトランスクリプトームなど予定の解析を実施する。
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