研究課題/領域番号 |
20H03718
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渥美 達也 北海道大学, 医学研究院, 教授 (20301905)
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研究分担者 |
奥 健志 北海道大学, 大学病院, 講師 (70544295)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 精神神経SLE / 抗リン脂質抗体(aPL) / 全身性エリテマトーデス / 認知機能障害 |
研究実績の概要 |
本研究は抗リン脂質抗体症候群の責任抗体と考えられている、抗リン脂質抗体(aPL)による神経障害の機序を解析することを目的としている。申請者らは、抗リン脂質抗体であるマウスモノクローナル抗β2グリコプロテインI (GPI)抗体であるWBCAL-1がどの中枢神経系細胞に結合するかについて、免疫組織化学を用いて評価した。浸透圧ポンプを用いた14日間のWBCAL-1投与モデルにおいて、コントロールIgG投与群と比較して興味部位である海馬CA2-3領域の神経細胞におけるマウスIgG沈着を認めた。神経細胞死について、TUNEL染色では、WBCAL-1投与群とコントロールIgG群との差はみられなかったが、ミクログリアにおいてはCD68発現が高い細胞がWBCAL-1投与群で多く認められた。WBCAL-1と神経細胞との結合には、β2GPIの介在が必要であるが、これまでに実施したモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学法で、β2GPIが海馬CA2-3領域に認められ、海馬内でも認められていた。しかし、当該年度の実験において、β2GPIノックアウトマウスにおいても同様のシグナルが検出され、非特異的シグナルであった可能性が考えられた。また、WBCAL-1の中枢神経系細胞への結合について再現性が得られなくなり、免疫染色時に使用するdetergentの影響を考えられたが、実験に大幅な遅れが生じたものの、本年度も継続して、WBCAL-1が神経細胞及びミクログリアに与える変化について、磁気ビーズ細胞ソーティング(MACS)を用いた神経細胞・ミクログリアを分離により、神経細胞またはミクログリア、それぞれの遺伝子発現の差から、特徴的な遺伝子発現変化について確認していく。また、抗リン脂質抗体症候群患者の脳機能・構造異常についても、脳機能的MRIやVoxel-based morphometry解析を介して、マウスモデルとの整合性を図るべく、患者より臨床データの収集を行っており、並行して進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでβ2GPIノックアウトマウスを用いた検討からの海馬β2GPIの存在証明やWBCAL-1の中枢神経系細胞への結合についての再現性が得られず、その確認に多大な時間を要した。結果としては免疫染色時に使用するdetergentの影響を考えられ、β2GPI非介在性の結合様式などを考えているが、実験に大幅な遅れが生じた。来年度は継続して、WBCAL-1結合細胞である神経細胞やバイスタンダーであるミクログリアに与える変化について、網羅的遺伝子発現を行い、特徴的な遺伝子発現変化を確認する。抗リン脂質抗体症候群患者の脳機能・構造異常についても、脳機能的MRIやVoxel-based morphometry解析を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
WBCAL-1が神経細胞及び周辺のミクログリアに与える変化について、まずは網羅的遺伝子解析を行い、関連遺伝子から変化のあるシグナル経路を推定し、神経細胞においてはシナプス小胞蛋白発現、Golgi-Cox染色による神経形態学的評価などを、またミクログリアにおいては貪食能力の評価などを介して、表現型解析を行いたい。パスウェイ解析から得られた情報から蛋白レベルの解析へ繋げるが、aPLの中枢神経系細胞における病因に働くシグナル経路・蛋白を同定し、機能獲得・抑制実験へ繋げることで新規治療標的の同定を目指すとともに、β2GPIのノックアウトマウスも用いて、同定した蛋白などの意義を検証したい。 最後に、aPL陽性及び陰性の全身性エリテマトーデス患者における、脳Voxel-based morphometry(VBM)解析の患者のリクルートを引き続き行い、VBM解析を完了したい。
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