ペア型免疫受容体による生体外脂質の認識機構とアレルギー・炎症の新規制御機序の解明

2020 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 20H03721
• 研究機関: 順天堂大学
• 研究代表者: 北浦 次郎 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 先任准教授 (30282651)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: ペア型免疫受容体 / アレルギー / 炎症 / 脂質

研究実績の概要

CD300/LMIRは生体内脂質を認識するペア型免疫受容体であると考えられている。本研究の目的は、LMIR3-8が認識する生体外脂質を同定してアレルギー・炎症の新規制御機序を解明することである。異物（花粉や微生物など）に含まれる生体外脂質とLMIR3-8に着目して、研究目的の達成を目指している。我々は、野生型及びCD300b/LMIR5欠損マウスに対してAspergillusの分生子（死菌）を気管内投与（連日）したところ、野生型マウスと比較してCD300b欠損マウスの肺胞洗浄液中の総細胞数（好酸球数・好中球数）や各種サイトカイン・ケモカイン量が著減することを見出した。これと一致して、CD300b欠損マウスの肺組織における炎症細胞浸潤は軽微であることが確認された。また、野生型マウスの肺では、分生子を貪食して多核化した巨大な肺胞マクロファージが散見されたが、CD300b欠損マウスでは分生子を貪食した肺胞マクロファージに明らかな形態変化は認められなかった。さらに、解析を進めた結果、CD300bは肺胞マクロファージや好中球による分生子の取り込み過程に寄与しないが、肺胞マクロファージ内における分生子の分解に関与する可能性が示唆された。さらに、CD300bの細胞外領域はAspergillusの分生子に結合することを見出し、分生子から抽出された脂質成分の中にCD300bのリガンドが存在する可能性が示唆された。他方、CD300bやCD300fの細胞外領域を利用する結合及びレポーターアッセイより、ブタクサ花粉から抽出された脂質の中にCD300bやCD300fのリガンド候補が存在する可能性がを見出している。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は、ペア型免疫受容体であるCD300/LMIRファミリー分子のLMIR3-8が認識する生体外脂質を同定してアレルギー・炎症の新規制御機序を解明することである。本研究では、生体外の異物（花粉や微生物など）に着目して、LMIR3-8のリガンド脂質の同定を試みる。我々は、2020年度内に、CD300b/LMIR5がAspergillusの分生子（死菌）に含まれる何らかの脂質を認識すること、さらに、その分生子がCD300b依存的に肺の炎症を促進することを示した。また、ブタクサ花粉の中に、CD300bやCD300f/LMIR3のリガンド脂質が存在する可能性を示した。従って、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

CD300bのリガンド脂質をAspergillusの分生子に含まれる総脂質の中から同定する。また、肺胞マクロファージのCD300bがAspergillusの分生子に含まれる特定の脂質を認識して、炎症をどのように促進するかを明らかにする。他方、ブタクサ花粉に含まれる総脂質の中からCD300bあるいはCD300fのリガンドを同定する。ブタクサ花粉による炎症モデルを利用して、CD300bあるいはCD300fがブタクサ花粉によるアレルギー・炎症をどのように制御するかを明らかにする予定である。尚、リガンドを同定するために、薄層クロマトグラフィーによる脂質再分離とCD300bやCD300fの細胞外領域を利用する結合・レポーターアッセイを繰り返す。また、他の生体外異物の中からLMIR3-8のリガンド脂質を同定するために、スクリーニングを継続する。

研究成果

• [雑誌論文] Notch signaling contributes to the establishment of sustained unresponsiveness to food allergens by oral immunotherapy. (2021)
  • 著者名/発表者名: Yoneyama T, Nakano N, Hara M, Yamada H, Izawa K, Uchida K, Kaitani A, Ando T, Kitaura J, Ohtsuka Y, Ogawa H, Okumura K, Shimizu T
  • 雑誌名: J Allergy Clin Immunol 巻: 147 ページ: 1063-1076
  • DOI: 10.1016/j.jaci.2020.07.011.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Orally desensitized mast cells form a regulatory network with Treg cells for the control of food allergy. (2021)
  • 著者名/発表者名: Takasato Y, Kurashima Y, Kiuchi M, Hirahara K, Murasaki S, Arai F, Izawa K, Kaitani A, Shimada k, Saito Y, Toyoshima S, Nakamura M, Fujisawa K, Okayama Y, Kunisawa J, Kubo M, Takemura N, Uematsu S, Akira S, Kitaura J, Takahashi T, Nakayama T, Kiyono H
  • 雑誌名: Mucosal Immunol 巻: 14 ページ: 640-651
  • DOI: 10.1038/s41385-020-00358-3.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Anti-CD321 antibody immunotherapy protects liver against ischemia and reperfusion-induced injury. (2021)
  • 著者名/発表者名: Yin E, Fukuhara T, Takeda K, Kojima Y, Fukuhara K, Ikejima K, Bashuda H, Kitaura J, Yagita H, Okumura K, Uchida K
  • 雑誌名: Sci Rep 巻: 11 ページ: 6312
  • DOI: 10.1038/s41598-021-85001-2.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] A possible association between a novel NLRP1 mutation and an autoinflammatory disease involving liver cirrhosis. (2021)
  • 著者名/発表者名: Yasudo H, Ando T, Maehara A, Ando T, Izawa K, Tanabe A, Kaitani A, Nomura S, Seki M, Yoshida K, Oda H, Okamoto Y, Wang H, Kamei A, Kojima M, Kimura M, Uchida K, Nakano N, Kaneko J, Ebihara N, Hasegawa K, Shimizu T, Takita J, Ogawa H, Okumura K, Ogawa S, Tamura N, Kitaura J.
  • 雑誌名: Hepatology 巻: - ページ: -
  • DOI: 10.1002/hep.31818.
  • 査読あり
• [雑誌論文] アレルギー疾患と抑制化受容体(特集:抑制化受容体と免疫応答) (2021)
  • 著者名/発表者名: 伊沢久未、貝谷 綾子、北浦次郎
  • 雑誌名: 先端医学社、炎症と免疫 巻: 29 ページ: 13-18
• [雑誌論文] CD300f分子とアレルギー（解説） (2021)
  • 著者名/発表者名: 貝谷綾子、伊沢久未、内田志野、亀井杏菜、前原明絵、安藤智暁、北浦次郎
  • 雑誌名: 科学評論社、臨床免疫・アレルギー科 巻: 75 ページ: 218-225
• [雑誌論文] CD300fは食物アレルギーの治療標的となりうる (2020)
  • 著者名/発表者名: 内田志野、伊沢久未、安藤智暁、貝谷綾子、北浦次郎
  • 雑誌名: 科学評論社、臨床免疫・アレルギー科 巻: 74 ページ: 398-405
• [学会発表] Establishment of sustained unresponsiveness to food allergens by oral immunotherapy is prevented by inhibition of Notch signaling. (2020)
  • 著者名/発表者名: Nobuhiro Nakano, Toshiyuki Yoneyama, Mutsuko Hara, Hiromichi Yamada, Kumi Izawa, Koichiro Uchida, Ayako Kaitani, Tomoaki Ando, Jiro Kitaura, Yoshikazu Ohtsuka, Toshiaki Shimizu, Hideoki Ogawa, Ko Okumura
  • 学会等名: JSA/WAO Joint Congress 2020 (Web)
  • 国際学会
• [学会発表] Topical administration of particulate pollens induces IL-33- and mast cell-dependent eosinophilic conjunctivitis in mice. (2020)
  • 著者名/発表者名: Tomoaki Ando, Saaya Fukase, Moe Matsuzawa, Ayako Kaitani, Kumi Izawa, Ko Okumura, Akira Murakami, Nobuyuki Ebihara, Jiro Kitaura
  • 学会等名: JSA/WAO Joint Congress 2020 (Web)
  • 国際学会
• [学会発表] Differential lipid recognition by mouse versus human CD300f, inhibiting IgE- and mast cell-dependent anaphylaxis, depends on a single amino acid substitution in its immunoglobulin-like domain. (2020)
  • 著者名/発表者名: Ayako Kaitani, Kumi Izawa, Tomoaki Ando, Akie Maehara, Enzhi Yin, Moe Matsuzawa, Taiki Ando, Takuma Ide, Yoko Okamoto, Saaya Fukase, Mayuki Kojima, Anna Kamei, Hexing Wang, Ko Okumura, Jiro Kitaura
  • 学会等名: JSA/WAO Joint Congress 2020 (Web)
  • 国際学会
• [学会発表] Differential lipid recognition by mouse vs human CD300f, inhibiting IgE-mediated anaphylaxis, depends on a single amino acid substitution. (2020)
  • 著者名/発表者名: Ayako Kaitani, Kumi Izawa, Tomoaki Ando, Akie Maehara, Moe Matsuzawa, Taiki Ando, Takuma Ide, Yoko Okamoto, Saaya Fukase, Mayuki Kojima, Anna Kamei, Meiko Kimura, Hexing Wang, Ko Okumura, Jiro Kitaura
  • 学会等名: 日本研究皮膚科学会 第45回年次学術大会・総会（オンライン開催）
• [学会発表] 肝臓線維化を主徴とする希少疾患患者から同定されたNLRP1変異によるインフラマソームの活性化亢進 (2020)
  • 著者名/発表者名: 安東泰希、前原明絵、安藤智暁、伊沢久未、貝谷綾子、北浦次郎、田村直人
  • 学会等名: 第48回日本臨床免疫学会総会（Web開催）
• [学会発表] マウス結膜杯細胞由来ムチンにおけるシアル化状態の系統差 (2020)
  • 著者名/発表者名: 松澤萌, 安藤智暁, 貝谷綾子, 伊沢久未, 北浦次郎, 深瀬紗綾, 海老原伸行, 村上晶
  • 学会等名: 第124回日本眼科学会総会（Web開催）
• [学会発表] 「免疫アレルギー疾患の克服に向けた新しい創薬ターゲット」 抑制型受容体 CD300fによる即時型アレルギーの抑制機序 (2020)
  • 著者名/発表者名: 伊沢久未，北浦次郎
  • 学会等名: 第138回薬理学会近畿部会 シンポジウム 1 オンライン開催
  • 招待講演
• [学会発表] NLRP1変異による自己炎症性疾患 (2020)
  • 著者名/発表者名: 安東泰希、前原明絵、安藤智暁、伊沢久未、貝谷綾子、北浦次郎、田村直人
  • 学会等名: 第5回ORENCIA Rising Seminar（Zoom配信）
  • 招待講演
• [備考] 順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター
  • URL: https://research-center.juntendo.ac.jp/atopy_center/