研究課題
本研究では申請者が積み重ねてきた知見をふまえ、以下の2つを、核心をなす学術的問いとして推進している。1.単球中の主要なHIV-1潜伏感染細胞として同定してきたfibrocytesは、静止期CD4+ T細胞と比較して如何に重要か? その潜伏感染は如何に解除できるか?2.純化してきた2種類の組織常在マクロファージに、HIV-1は如何に潜伏感染するか? それは旧来の実験系から得られた結果と如何に違うか?まずfibrocytesに関してはHIV-1に感染しやすい原因を更に明確にした。つまり、HIV-1レセプターの高い発現、一方で複数のHIV-1抑制因子の低い発現を見出した。未治療感染者末梢血の解析において、単球中で比較的、HIV-1に感染しやすいとされてきた分画(intermediate)よりも多くHIV-1プロウイルスを含むことも予備的に見出した。組織(腹腔)常在マクロファージに関してはHIV-1関連の基本性質を更に明らかにした。まずCD45およびCD14共陽性の腹腔細胞をHLA-DRとCCR2で展開すると2つの集団に分けられる。CCR2が低い方はCD163(マクロファージ分化マーカー)が高いことから、胎児期から存在すると推定される。そしてこの集団はHIV-1レセプター(CD4)およびコレセプター(CCR5およびCXCR4)が非常に高いことを見出した。今後、特にこの集団についてのHIV-1感染動態解析が重要となっている。組織常在マクロファージについてはマウスでも解析を行い、その一部は論文として報告した(Cell Death Discov 2020)。
2: おおむね順調に進展している
本研究では大きく2つの細胞種に焦点を絞って解析を進める予定であり、どちらの標的についてもある程度進展させることができたと考えている。また本研究に関連したものとして、HIV-1伝播に関する成果(Retrovirology 2020)および組織常在マクロファージ関する成果(Cell Death Discov 2020)も報告した。
次年度も引き続いて、fibrocytesおよび組織常在マクロファージについて併行しながら解析を進める予定である。まずfibrocytesについては当初の計画に沿って、感染者検体や培養細胞を用いてウイルス学的な解析を中心にしながら、潜伏感染に有利な性質の一つ、つまり長期に増殖するのではないかと言う可能性についても検証したい。具体的には末梢血からソーティング純化後に実際に培養を行う、あるいはFACS解析(Ki67染色)による予備解析を予定している。組織(腹腔)常在マクロファージについては、ソーティング純化後にHIV-1を感染させ、その後のウイルスおよび細胞自体の動態をモニターすると言った、ウイルス学的な解析を中心にしながら、上記のfibrocytesと同様、潜伏感染に有利な性質の一つ、つまり長期に増殖するのではないかと言う可能性も検証する。これまでの知見を踏まえ、2つの集団の中でも、CCR2発現が低くかつHIV-1レセプター・コレセプター発現が高い集団に着目して解析を進める予定である。また2つの集団について遺伝子発現の特徴からも比較解析アプローチするため、RAN-seqも追加の解析としても進めていきたい。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
Cell Death Discovery
巻: 6 ページ: 63
10.1038/s41420-020-00300-3
Retrovirology
巻: 17 ページ: 20
10.1186/s12977-020-00528-y