研究課題
HIV-1感染症は有効な薬剤によってコントロール可能な慢性疾患となってきたが、ウイルス自体が体内から排除されるまでには至っていない。そのため、生涯の服薬が必要であり、かつ、それに伴って起こる薬剤体制ウイルスの出現が問題となっている。主な原因はHIV-1の潜伏感染である。代表的な潜伏感染細胞としてCD4陽性T細胞が良く知られているが、その他にも存在することは科学的に証明されており、その実体解明が望まれている。本研究では、その候補として単球・マクロファージ系の細胞に着目して解析を進めている。今年度は特にfibrocytesと呼ばれる細胞について、重要な発見をしてきた。この細胞は末梢血の中にある単球のうち、CD34と言う細胞抗原を発現する亜集団であり(CD14+CD34+)、これまで、長期治療した感染者のfibrocytes中に高い頻度でHIV-1プロウイルスを検出してきた。しかし、治療により血中ウイルス量が検出限界以下になった感染者の末梢fibrocytesになぜプロウイルスが存在し得るのか、不明であった。今年度、共同研究を通して解析の機会を得、初めてヒトのリンパ節中にfibrocytesが存在することを見出した。予想よりも数が多く、末梢ではCD14陽性細胞のうち1%程度であるが、リンパ節では10%程度と高い比率を示すことも見出した。以上から、リンパ節に残存するウイルスがfibrocytesへ感染し、その一部が末梢に循環している、新たな可能性が示唆され、更なる解析が重要となっている。
2: おおむね順調に進展している
これまで臨床検体の解析では末梢血を中心に腹腔細胞も併用して進めてきたが、HIV-1が潜伏感染する組織の一つと予想されているリンパ節について解析する機会を得た。そして実際に、潜伏感染候補の一つfibrocytesがリンパ節内に多く存在することを初めて確認した。組織マクロファージについては、リンパ節とは別に、これまで行ってきた腹水検体の収集を進めた。同時にマウスを例に長期増殖する組織マクロファージモデルを樹立してきた。その他、本研究と関連するウイルスおよびマクロファージ研究成果を報告した(PLoS Pathog 2021; Cancer Med 2022)。
次年度も引き続き、fibrocytesおよび組織常在マクロファージについて並行しながら解析を進める。特にfibrocytesについてはヒトリンパ節の解析が可能になったため、論文としての報告を目指して解析を加速する。具体的には、リンパ節中のfibrocytesが治療後も残存しているHIV-1に感染し、その一部が末梢を循環している可能性を検証する。そのためにまず、これまで明らかにしてきた、末梢fibrocytesの表現型がリンパ節fibrocytesでも同様か検証する。さらに、末梢からリンパ節に流入する際に必要な分子群、更にはリンパ節から末梢へ流出する際に必要な分子がどのように発現しているかを検証する。具体的には、通常のCD34陰性単球との比較解析を行う予定である。並行して進める組織マクロファージの解析もあわせ、CD4陽性T細胞以外のHIV-1潜伏感染細胞として、単球・マクロファージ系の細胞がどのような重要性および特性を有するかの解明につなげたい。
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Cancer Med
巻: 11 ページ: 1441-1453
10.1002/cam4.4537
PLoS Pathog
巻: 17 ページ: e1010126
10.1371/journal.ppat.1010126