研究課題/領域番号 |
20H03731
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲垣 暢也 京都大学, 医学研究科, 教授 (30241954)
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研究分担者 |
原田 範雄 京都大学, 医学研究科, 准教授 (50530169)
林 良敬 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (80420363)
山根 俊介 京都大学, 医学研究科, 助教 (90582156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インクレチン分泌 / 腸管内分泌ホルモン |
研究実績の概要 |
中鎖脂肪酸トリグリセリド (MCT) による長鎖脂肪酸トリグリセリド (LCT) 誘導性GIP分泌抑制機序の解明について進展が見られた。12週齢野生型マウスに対してLCTオイルおよび混合オイル (LCT+MCT) を単回投与したところ、混合オイル投与ではLCTオイルに比較して血中GIP濃度とCCK作用 (腸管内リパーゼ活性, 胆嚢収縮量) の低下を認め、この低下はCCKアゴニストの投与により完全に回復した。さらにマウス小腸細胞株STC-1を長鎖脂肪酸 (LCFA)、中鎖脂肪酸 (MCFA) で刺激したところ、LCFAはCCK分泌を誘導するがMCFAではCCK分泌が見られず、MCFAの添加によってLCFA誘導性CCK分泌は低下した。さらにMCFAはGPR120発現HEK293細胞においてLCFA誘導性細胞内Ca2+濃度上昇を抑制した。以上の結果からMCFAはLCFA - GPR120 - CCK分泌経路を阻害することにより、CCK作用を介したLCT摂取時GIP分泌を抑制することが示唆された。また6週齢マウスに生理食塩水 (コントロール群)またはMCTオイル (MCT群) の経口投与下で45%高脂肪食を12週間負荷したところ、野生型マウス(WT)ではMCT投与による血中GIP濃度の抑制、体重・体脂肪量の有意な低下、インスリン感受性・エネルギー消費量の増大を認めたが、GIP欠損マウス(KO)では、コントロール群とMCT群の間で差を認めなかった。WTにおいて経口ブドウ糖負荷負荷15分後のインスリン濃度はMCTオイル群でコントロール群と比較して有意に低下した(血糖値は有意差なし)。一方KOでは糖負荷後血糖値・インスリン濃度に2群間の差は認められなかった。これらの結果から、MCTオイルはGIP分泌抑制を介して長期高脂肪食摂取下の肥満・インスリン抵抗性を軽減することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初今年度予定していた「胆汁による腸管内分泌ホルモン分泌への影響」から派生して検討を進めていた、中鎖脂肪酸トリグリセリド (MCT) による長鎖脂肪酸トリグリセリド (LCT) 誘導性GIP分泌抑制機序の解明について大きな進展が見られた。この成果は英文学術誌に投稿・掲載されている(Murata et al.iScience. 2021)。派生的な研究結果ではあるが着実に成果をあげており、全体の研究計画としてはおおむね順調に進展しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定である胆汁酸による腸管内分泌ホルモン分泌への影響の検討も進める。これまで得られた成果から、腸管内のGPR120シグナルの減弱はCCK分泌の低下を介してGIPの過分泌を抑制し、高脂肪食摂取による肥満・インスリン抵抗性の形成を緩和できる可能性があるが、GPR120は脂肪細胞をはじめとする腸管以外の臓器にも発現が見られるため、全身欠損マウスでは腸管におけるGPR120シグナルの生理的意義を検討するのは困難である。そこで腸管上皮特異的GPR120欠損マウスを作製し、表現型を評価する。腸管上皮特異的GPR120欠損マウスの作製はすでに成功し、解析に着手している。各研究者は計画の遂行にあたり必要な技術に熟達しており、研究代表者の統括のもと、相互の連携により組織的に研究を実施する。
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