研究課題
我々は、栄養不良マウスや高齢マウスにおいて骨格筋のPin1蛋白量が顕著に減少し、逆に、過栄養状態でPin1蛋白量が増加することを報告している。しかし、興味深いことに、筋肉のPin1タンパク量は、mRNAレベルでの変化を伴っておらず、Pin1のタンパク修飾を介した分解速度に依存しているものと推測される。そこで、高齢マウスや肥満モデルマウスであるob/obマウス、さらには骨格筋機能障害モデルとしてストレプトゾトシン投与マウスと後足懸垂モデルを作製する。遅筋であるヒラメ筋や速筋である長趾伸筋を摘出し、Pin1の発現量の変化を検討する。また、Pin1蛋白の安定性に影響を及ぼす可能性のある各種の翻訳後修飾(リン酸化、SUMO化など)について、免疫沈降と質量分析装置を組み合わせて検討する。さらには、継続的な運動トレーニングによるPin1発現量と機能の変化を検討する。以上から、栄養状態や加齢、運動等による骨格筋Pin1発現量・機能変化のメカニズムを明らかにする。さらに、最近、我々は結合タンパクの網羅的解析から、Pin1が、中性脂肪分解酵素のHSLとATGL及び、脂肪合成に関わるACC1に直接、結合することを検出した。特記すべきことに、Pin1は中性脂肪分解酵素であるHSLとATGLに強く結合して分解を促進する一方、脂肪合成に関与するACC1に対しては安定化させて発現量を増加させることが判明してきた。これらの研究をさらに推進し、糖・脂質・アミノ酸の代謝マップ上におけるPin1の制御部位を同定し、代謝統合への役割を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
特に大きな問題は生じていないが、コロナウイルスの蔓延のため、大学院生の研究時間等がやや減少している。
我々は、プロリン異性化酵素Pin1と栄養状態との関係、さらにエネルギー代謝と炎症を制御することで、メタボリックシンドロームの成因に関与していることを世界に先駆けて証明してきた。今回、筋肉特異的Pin1 KOマウスの運動能力の低下から、Pin1が筋量と筋繊維タイプとは関係しない未知の「筋量非依存的な骨格筋機能調節」に関与していることを見い出した。Pin1結合タンパクの網羅的な同定を行い、筋肉の収縮機能に関係するものを絞り込んだ結果、Calsequestrin1 (CASQ1)とSERCA1がPin1による標的候補として選別された。両者とも、筋小胞体のカルシウムサイクリングに関係するタンパクであるため、細胞内カルシウム濃度の調節から筋肉の収縮や持久力に影響を与える可能性が高い。そこで、今後は、CASQ1とSERCA1のpSer/pThr-Proを含む配列に変異を入れ、Pin1との結合に必要な部位を同定する実験によって、筋収縮強度がPin1の有無により変化するメカニズムを解明する。また、これによって、全身的な代謝機能がどのように変化するかについても研究を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
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