研究課題/領域番号 |
20H03732
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浅野 知一郎 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (70242063)
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研究分担者 |
中津 祐介 広島大学, 医系科学研究科(医), 講師 (20452584)
山本屋 武 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (50760013)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Pin1 / 代謝異常 / 筋肉 / 運動機能 |
研究実績の概要 |
我々は、プロリン異性化酵素Pin1が過栄養状態で増加し、メタボリックシンドロームの成因に関与していることを世界に先駆けて証明した。我々は遺伝子改変マウスを用いた実験手法の他、Pin1標的タンパク質の網羅的スクリーニング技術にも熟練しており、現在までにIRS-1、Crtc2、AMPK、PRDM16、SIK2等の代謝調節に重要な複数のタンパクがPin1の標的であることを見出し、肝や脂肪細胞では脂肪蓄積や炎症などの代謝異常に不可欠な関与をしていることを報告してきた。我々は、筋肉特異的Pin1 KOマウスを作成したところ、筋肉量や筋繊維タイプには全く変化がないにも関わらず、持久力と筋力が顕著に低下していることを見出した。そこで、免疫沈降からLC/MS/MSを用いる手法を用いて、Pin1結合タンパクの網羅的な同定を行った。その中で、筋肉の収縮機能に関係するものを絞り込んだ結果、Calsequestrin1 (CASQ1)とSERCA1がPin1による標的候補として選別された。両者とも、筋小胞体のカルシウムサイクリングに関係するタンパクであるため、細胞内カルシウム濃度の調節から筋肉の収縮や持久力に影響を与える可能性が高い。筋肉機能に影響を与えるPin1標的タンパクが、他にも複数、存在する可能性は十分に考えられるため、CASQ1とSERCA1の機能制御への検討と共に、新規のPin1標的タンパクの検索も継続して遂行する。 一方、我々は、結合タンパクの網羅的解析から、Pin1が、中性脂肪分解酵素のHSLとATGL及び、脂肪合成に関わるACC1に直接、結合することを検出した。特記すべきことに、Pin1は中性脂肪分解酵素であるHSLとATGLに強く結合して分解を促進する一方、脂肪合成に関与するACC1に対しては安定化させて発現量を増加させることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Pin1がCASQ1とSERCA1に結合する部位及びキナーゼの同定が順調に進んでおり、ild-typeマウスとPin1 KOマウスの筋管細胞を培養し、Fura-2を用いたカルシウムサイクリングへの影響も検討中である。さらに、全身の代謝への影響も検討を進めており、計画は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
骨格筋のPin1を欠損させても定常状態での筋重量には影響しないが、我々は、絶食時に骨格筋のPin1発現量が劇的に減少することから、Pin1が絶食や薬剤誘導等による骨格筋委縮や筋再生に関与している可能性を考えている。そこで、以下のような実験を行う。 (1) Pin1 KOとwild-typeマウスにストレプトゾトシンやデキサメタゾンを投与することで、筋委縮を誘発し、筋重量減少の差を検討する。また、筋委縮に重要な因子であるatrogin-1とMurfの発現量及びその発現を制御する転写因子FOXOの発現量、核移行についても調べる。 (2)両群マウスの骨格筋にカルジオトキシンを投与することで筋肉の壊死を誘発する。一定期間後にマウスを解剖し、筋重量測定や組織観察し、筋肉の再生を検討する。 (3)上記二つの方法で、差が認められた場合、骨格筋委縮・再生に関わるPin1結合蛋白の同定を試みる。方法として、上記の病態モデルにウイルスベクターを用いて、筋に直接Tag付きのPin1を過剰発現させ、多段階免疫沈降を行う。その後、銀染色を行い、正常と病態時でPin1との結合に差が認められるバンドを切り出し、LC-MS/MSにて同定する。その後、同定した蛋白がPin1によりどのような機能制御をうけるかを詳細に解析していく。
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