研究課題
肝移植におけるドナー不足は未解決であり、心停止肝や脂肪肝の安全な利用が望まれる。本課題は、1) MPの至適条件、2) MP中の薬物性コンディショニングの効果を明らかにし、それらの試料解析により、3) 移植前グラフト機能評価法の確立を目指して検討した。SHRSP5-Dmcr ratに高脂肪高コレステロール食を給餌し、脂肪肝を作成し、脂肪化の程度をMRIで評価する方法論を確立した。脂肪肝を新液で冷保存し、再灌流後の肝機能を評価したが、強い保護効果の提示には至らなかった。ラット長時間冷保存肝、心停止肝の3時間冷保存をpH調整UW-MP液で機械灌流し、各温度での至適pHを見出した (data非開示)。また、これらの易障害性肝グラフトに対する機械灌流中の水素ガス投与は血管抵抗を減弱したが、臓器機能の改善には至らなかった。しかし、末梢循環改善によって末梢組織の構築は著明に改善された。肝表面から水素ガスを浸透させることで末梢循環を制御できる可能性が示唆された。各温度で灌流した肝組織は、機械灌流終了時はもとより、37℃再灌流後にもミトコンドリアのクリステの構造が保たれていた。また、電子伝達系複合体Ⅰの機能障害で漏出するフラビンモノヌクレオチド (FMN) を低温酸素化灌流の灌流液でHPLC測定すると、FMN量が再灌流後の胆汁産生量、ALT漏出などを予測し得るマーカーであったが、同じ蛍光波長で検出されるリボフラビン (RF)、フラビンアデニンジヌクレオチド (FAD) は障害の予測には適さず、HPLCで分離してから蛍光測定することが重要と考えられた。タンパク質、メタボローム、レドックス・酸化ストレス、オスミウム浸軟SEM、LC-MS/MS (リピドミクス)などの解析条件を確立したので、各温度での機械灌流の至適pHで灌流した肝組織の採取を終え、順次解析を進めている。
3: やや遅れている
各温度における肝機械灌流の至適pH、至適灌流量、等の単離肝灌流によるスクリーニング、試料採取はおおむね順調に進み、各種の解析方法の確立も順調である。一方で、薬剤によるコンディショニング、肝移植による生存の確認などの臨床外科的なエンドポイントを得るためのモデル作成は遅れている。研究分担者藤好自身がモデルを作成するか、協力者の学生を指導する予定であったが、動物実験施設への立ち入り制限や、COVID19流行に伴う本務の激化によって進捗が遅れたものである。一方で、オスミウム浸軟走査電子顕微鏡観察、フラビンモノヌクレオチド (FMN) 、リボフラビン (RF)、フラビンアデニンジヌクレオチド (FAD) のHPC解析、タンパク質、メタボローム、レドックス・酸化ストレス、LC-MS/MS (リピドミクス)などの解析条件の確立は予定通りに進捗した。
各温度での機械灌流の至適pHで灌流、あるいは、これらのpH条件を内包する新規灌流液を用いた灌流を実施し、単離肝灌流による有効性のスクリーニングを引き続き実施する。採取した肝組織を順次解析する。また、ラット肝移植モデルを担当する学外研究分担者の状況を注視し、自身でモデル作成が困難なようであれば、協力者の大学院生を増やし、技術指導して当初目的の達成を目指す。試料分析はLC-MS/MSによるlipidomics解析、質量分析イメージングによる脂質と小分子 (エネルギー代謝産物や小ペプチド) から着手し、次にLC-MS/MSによるプロテオミクス解析を行う。これらのマルチオミクス解析により、脂質や小分子の量的変化を担うタンパク質の反応機構を絞り込む。さらに、それらのタンパク質が如何にエネルギー代謝、生存・死シグナル、酸化ストレス、ミトコンドリア機能などの調節に関わるのかを紐解いていく予定である。
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