研究課題
我々はこれまでにげっ歯類多能性幹細胞のキメラ形成能を利用して動物体内に多能性幹細胞の膵臓を作製することに成功している。法律の改正によりこれまでできなかったヒトiPS細胞を使ったヒト臓器作出の研究が可能になったが、ヒトとマウスは進化的距離が非常に離れた動物種であり、多能性幹細胞の性質の違いや、発生過程の細胞間相互作用に関わる分子の種差がヒト-マウス異種キメラ形成ならびにヒト臓器作製を阻む壁になることは容易に想像される。そこで、本研究ではイメージング技術や遺伝子発現解析を駆使し、ヒトiPS細胞がマウス環境に適応する為の条件を解明し、ヒトーマウス異種間キメラおよびマウス体内でのヒト膵臓作製を目指す。予備実験および既報から、 ヒトiPS細胞とマウス胚の発生段階の違い、接着分子、シグナル伝達分子の違い、また細胞競合による排除 などがマウス発生環境にヒト細胞が協調するための障壁となると考えられる。当該年度は、発生の砂時計と称される発生初期における発生メカニズムが種ごとに厳密に制御されている時期より後の発生中期でのヒト細胞を注入することでキメラを形成させる技術(exo utero法)の確立を目指した。初期胚への移植系は直接胚の臓器に注入する方法と臍帯経由があるが、視覚性と確実性から卵黄静脈経由の移植系の確立を試みた。その結果、E13.5、E14.5胚において卵黄静脈経由で胎児肝臓、すい臓を含む、胚全体に造血前駆細胞、hepatoblastを移植することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
卵黄静脈経由のexo utero法により造血前駆細胞、hepatoblastを胚全体に移植する技術が確立できた為、計画通りに順調に進展していると判断した。
マウスの肝臓、すい臓はE10.5付近で発生が始まる。したがって、E10.5付近での細胞移植を行うことが望ましいと考えるが、卵黄静脈経由では、形態学的な理由により、E13.5以前の胚への移植は困難である。そこで、E10.5胚への移植も可能である胎盤経由の移植系を確立し、肝臓、すい臓への細胞移植を試みる。
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