研究課題/領域番号 |
20H03747
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
北川 雄光 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (20204878)
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研究分担者 |
岡林 剛史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (00338063)
川久保 博文 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (20286496)
松田 諭 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30594725)
北郷 実 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70296599)
阿部 雄太 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70327526)
林田 哲 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80327543)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がんゲノム医療 |
研究実績の概要 |
本邦ではがんゲノム医療推進のため、慶應義塾大学病院を含む11施設を「がんゲノム医療中核拠点病院」と定め、癌領域におけるクリニカルシークエンスが保険適応となった。申請者の教室ではDNA情報に加え、RNA情報・エピジェネティック情報等を同一検体から収集して多層データ(オミックスデータ)を構築し、腫瘍の全体像を統合的に捉える次世代型クリニカルシークエンスの構築を開始している。この際にゲノム情報と合わせて、患者の転帰を含めた臨床情報を収集することは、より精度の高いゲノム医療の構築のために最も重要な役割を果たす。しかし通常は臨床情報とゲノムオミックス情報を統合解析するためには複雑なバイオインフォマティクスの知識とプログラミング技術が求められ、医療従事者の適切な理解の上で大きな障害となっている。そのため、申請者らはゲノム情報と臨床情報を直感的なマウス操作で解析可能なアプリケーションを使用し、クリニカルシークエンスの結果を臨床情報と合わせて、臨床医のみならず、医療従事者全てが得られた臨床情報をゲノム情報と合わせて、容易に解析する環境を構築した。本研究はゲノム医療時代に、臨床情報の収集を行い、ゲノムオミックス情報と合わせて、カンファレンスなどでオンタイムに統合解析することが可能なシステムを開発し、がんゲノム医療の治療戦略決定システムに対する基盤形成を行なっていくことを目的とした。 この目的のため、臨床情報・副作用情報・PRO(Patient Reported Outcomes)情報をゲノム・遺伝子発現情報と統合解析可能なソフトウェアであるSocratesを開発し、日本IBMの協力を得てIBMクラウド上で走らせることが可能であった。現在、乳がん・食道がんの情報蓄積を行い、クラウド上で自在に解析が可能なシステムを目指して研究が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がんゲノム医療の均てん化のため、より簡便かつ迅速に実施できるクリニカルシーケンスのシステムを確立することを目的とし、悪性固形腫瘍の診断・治療を目的として採取された腫瘍組織に対して、同意が得られた全症例で遺伝子パネル検査(PleSSision Rapid)が実施されている。現在までに乳がん・食道がんにおいて臨床情報がすでに蓄積されており、かつこれに対応する症例で、PleSSision Rapid検査がすでに800例以上に施行されこれを含むオミックスデータの蓄積が行われ、さらに増加中である。計画はすでに慶應義塾大学医学部内の倫理委員会にて承認をされ、現在までに約100例の乳がん患者のオミックスデータが構築されている。 臨床情報とDNA変異情報に加え、遺伝子発現情報を含むオミックスデータを解析可能であり、さらにはThe Cancer Genome Atlas、SEERなどの公共のデータベースも解析可能であるアプリケーション「Socrates」を開発した。本ソフトはプログラミングの技術なくともマウスのクリック操作のみで直感的で容易に解析可能な仕様となっており、研修医を含めた全ての医師が容易にクリニカルシークエンス情報と臨床情報をインプットし自ら解析することが可能な状況である。上記で収集された情報は匿名化の上、データベース化し、「IBM Cloudサーバ for Keio Med Hub」へ蓄積し、Socratesにて解析可能な状態となっている。さらに構造化された臨床情報は、前述のゲノム情報と統合されることで、層別化された群ごとの予後と遺伝子変異情報の比較などが実現可能となるが、これをより一層効率的に収集するためのシステム構築も開始した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、臨床データをさらに充実させるため、自然言語処理を用いた診療録の構造化システムの開発と知識データベースの充実化を今年度は行う。個別の疾患の全体像を把握するために、自由記載形式で形成された診療録の単語を検索する際は、一つの言葉における多様な表現が、検索の精度を低下させてしまう。共同研究を行っている日本IBM社と、診療録における問題について検討を行い、これら自由記載における言葉の「ゆらぎ」、すなわち類義語を認識して一つの医学用語に集約・統合することで構造化するシステムを開発していく。自由記載の診療録の記述をもとに、人工知能(AI)による「疾患の診断」・「検査項目追加の指示」・「重度の疾患や副作用の示唆」などに利用することが可能である。すでに我々は疾患のガイドラインや教科書的な文献、もしくは仮想の症例を用いて本システムの基盤を整備し、実用化に至るためのある程度の精度を達成している。本研究では、本システムのさらなる精度の向上を図るため、実際の診療において自由記載として記述された診療録を用いて、これら構造化の精度を上げると同時に、患者の症状・診断などを予測するAIの正確性を検証することを目的としている。本研究を通じて、診療録のもつ新たな側面をIoT技術によりハイライトし、さらなる付加価値を求めることが可能になると考えられる。これにより構造化された臨床情報は、前述のゲノム情報と統合されることで、層別化された群ごとの予後と遺伝子変異情報の比較などが実現可能となり、より一層の価値の向上が認められると考えられる。臨床データのないゲノム情報に意味はないため、2022年度はこれを充実する手法を追求していく。
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