研究課題
本研究ではFbxo22によるKDM4Bの分解とそれに対するHER2/PI3K/AKT経路のクロストークのメカニズムを解明し、Luminal/HER2乳がんとPI3K/AKTが活性化したLuminal乳がんに対する内分泌療法感受性マーカーおよび治療薬開発のための基盤とすることを目的に解析を進め、2020年度は以下の結果を得た。ERとHER2-PI3K-AKT経路のクロストークの核心メカニズムとして、AKTによるKDM4BのSer666のリン酸化(pS666)がKDM4BとFbxo22の結合およびFbxo22によるKDM4Bのユビキチン化を阻害し、Fbxo22の発現が正常な状態であってもKDM4Bを介したエストロゲンシグナルを助長することが分かり、成果の一部を公表した(Autophagy, 2021, online ahead of print)。Luminal/HER2乳がんが内分泌療法に抵抗を示す機序と考えており、臨床的に重要である。KDM4B-pS666についてはウェスタンブロットおよび蛍光免疫染色が可能なポリクローナル抗体を作成し、その特異性を確認した。実際にheregulinによるHER2シグナル活性化によってリン酸化が生じ、AKT阻害剤によって抑制されることを複数の乳癌細胞株(MCF-7、T-47D、ZR-75-1、BT474、MDA-MB-361)にて確認した。また、蛍光免疫染色にてKDM4B-pS666が転写活性化部位に局在することが示唆された。免疫染色診断薬用に新たに高感度のFbxo22モノクローナル抗体を作製し、乳癌臨床検体を用いてその至適条件を確立した。さらに、in vivoにおけるFbxo22の機能とエストロゲン関連発がんにおける役割を解析するためにFbxo22-floxマウスを作製した。
2: おおむね順調に進展している
作製したKDM4B Ser666残基のリン酸化に対するモノクローナル抗体は特異性がなく、失敗であったが、それに代替する高感度で特異度の高いポリクローナル抗体を得ることに成功した。本抗体は蛍光免疫染色にも有効であり、KDM4B pS666が転写活性化部位に一致すると考えられる核内fociを形成することから、予定外の機能についての解析も可能となることが予想される。また、Fbxo22抗体についても免疫染色診断に使用しうる高感度で特異度の高いモノクローナル抗体を新たに作成した。提携企業も決まり、乳癌の内分泌療法感受性の診断薬としてキット化に向けた足がかりが出来た。また、Fbxo22 floxマウスを得ることができ、今後Lactoferin Creマウスと交配することにより、乳腺や子宮内膜におけるFbxo22の役割および発がんメカニズムを解析する準備が整った。以上より、当初計画のうち、2020年度に予定した7割程度は実験が終了しており、また、予定以上の成果も得られていることから、おおむね順調と判断した。
1) 乳がん臨床検体におけるKDM4B-pS666の発現を免疫組織染色で解析し、予後、内分泌療法感受性、Ser473リン酸化(活性化)AKTとの相関を検討する。また、この抗体を用いて内因性のKDM4B-pS666を制御するメカニズムを解析する。さらにCRISPR/Cas9にてKDM4B-S666Aノックイン細胞を樹立し、AKTによるKDM4B-pS666によって制御される下流のメカニズムを明らかにする。2) 前年度に企業との共同研究にて至適条件を決定した乳がん診断薬用新規Fbxo22モノクローナル抗体について、キット化を進める。3) 前年度に作製したFbxo22 flox/floxマウスと、既に入手済みであるLactoferin Cre/+マウスを交配し、乳腺および子宮内膜特異的なFbxo22コンディショナルノックアウトマウスを作製する。マウスは生後60日頃に乳腺および子宮内膜上皮のFbxo22がノックアウトされると思われる。このマウスを用いて、Fbxo22欠損による乳がんの発がん、月経周期子宮内膜の変化、子宮内膜がんおよび前がん病変発症の誘発、タモキシフェン発がんの助長を解析する。
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http://www.marianna-u.ac.jp/t-oncology/index.html