研究課題
本研究ではエストロゲン受容体(ER)シグナルの活性化に必要なKDM4Bが、ユビキチンリガーゼFbxo22によって分解されるのをAKTによるKDM4B Ser666残基のリン酸化(pS666)が抑制することから、これを中心に、ERシグナルとHER2/PI3K/AKT経路のクロストークのメカニズムを解明することである。2021年度は以下の結果を得た。KDM4B pS666はAKTに加えてキナーゼXによって亢進し、これはキナーゼXのサブタイプのうち特にキナーゼXYによるもので、キナーゼX阻害剤によって抑制された。KDM4Bはレーザーマイクロ照射によるDNA二本鎖切断部位に集積し、この集積はキナーゼX阻害剤によって抑制されたが、野生型KDM4Bを擬似リン酸化変異S666Dに置換した細胞では集積がレスキューされた。KDM4Bノックアウト(KO)細胞では放射線照射(IR)後のγH2AX 核内fociの消失が遅延することからDNA損傷修復に必要なことが示されたが、上記を反映してキナーゼX阻害剤によるIR後のDNA修復遅延はKDM4B S666D細胞ではレスキューされた。また、キナーゼX阻害剤はBRCA1欠失を含む、相同組換え修復不全細胞において合成致死効果が認められた。一方、2020年度に作成したFbxo22-floxマウスとLactoferin誘導性にCreを発現するLtf-iCreマウスを掛け合わせ、乳腺と子宮内膜特異的なFbxo22コンディショナルノックアウト(cKO)マウス(Fbxo22-flox/flox; Ltf-Cre/+)を作成し、子宮内膜と乳腺の変化を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画のKDM4BのS666変異ノックイン細胞については最終的に目的のクローンが得られなかったが、その代替細胞株としてCas9/CRISPRにてKDM4Bのノックアウト細胞を作成し、doxycyclin誘導性に安定的にS666AおよびS666Dを発現する乳癌細胞株MCF-7およびT47D細胞を作成し、これらを用いて、概ね目標とする結果が得られている。KDM4Bの核内fociの意義については、転写における役割は当初の目標まで達していないが、その代わりにDNA損傷修復におけるあらたな役割が判明し、その際のリン酸化の意義も明らかとなった。薬剤感受性についてもこのリン酸化が果たす役割が概ね明らかとなったことから、それを利用した合成致死のメカニズムも判明した。これに加え、Fbxo22-cKOマウスも作成に成功した。以上より、おおむね順調と判断した。
令和3年度の研究にてキナーゼXがKDM4BのSer666塩基のリン酸化を制御する重要なキナーゼであること、このリン酸化がKDM4BのDNA損傷部位への集積に重要な役割を果たし、内分泌療法感受性とともに、DNA損傷修復においても重要なことが判明した。また、乳腺および子宮内膜上皮に特異的なFbxo22-cKOマウスを作成した。そこで令和4年度は、これらの研究成果を完結させるために下記に取り組む。KDM4Bノックアウト、S666A、S666D置換細胞を用いて内分泌療法に対する感受性を解析する。KDM4Bノックアウト細胞および、S666リン酸化を左右する諸条件において、CRISPR/Cas9にてゲノムの近位2箇所を切断し、再結合される際のNHEJの効率を次世代シーケンサーにて解析し、KDM4BによるNHEJの制御を明らかにする。キナーゼX のsiRNAによるin vivoでの表現型の解析、およびin vitroのkinase assayを行う。キナーゼX阻害剤はDNA二本鎖切断部位へのKDM4Bの集積を阻害し、相同組換え修復不全を有する細胞に対して合成致死性を示した。令和4年度はこの現象の確証を得るために他の修復因子との関連を解析する。キナーゼXによるリン酸化はKDM4BのSer666残基以外にXX残基も重要な基質である可能性があるため、XXリン酸化抗体を作成して解析する。Fbxo22-cKOマウスの表現型として、子宮内膜上皮の月経周期に対する影響、タモキシフェン誘発子宮内膜がんの助長、乳がん発症の有無について解析する。
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http://www.marianna-u.ac.jp/t-oncology/index.html