がんは局所にとどまる場合には外科的切除によって多くの場合根治が可能である。しかしながら、進行とともに浸潤、転移、治療抵抗性などの悪性形質を獲得し、難治となる。本研究では、がんの難治性を規定する転移、治療抵抗性について多面的な解析を行い、これら形質に寄与するメカニズムを追求した。大腸がん肝転移のメカニズムを理解するため、患者由来がんおよび遺伝子編集オルガノイドを用い、大腸がんで変異が認められる遺伝子群を対象とし、CRISPR-Cas9を用いたノックアウトスクリーニングを行った。その結果、転移能を大きく向上させる遺伝子を1つ同定した。この遺伝子はヒト大腸がんの10%程度で変異が認められ、がんゲノミクスに即したものであった。これまで転移を促進する単一の遺伝子変異は同定されておらず、本転移モデルを活用することで転移メカニズムのより深い理解につながると考えられる。また、治療抵抗性メカニズムの追求として、大腸がん幹細胞の可視化およびイメージング技術を駆使することで、化学療法後のがん再燃に寄与する休眠がん幹細胞を同定した。このがん幹細胞は通常増殖時には細胞外マトリクスからのシグナルによってほとんど分裂せず静止しているが、化学療法による刺激によって増殖を開始し、治療後の腫瘍増殖に貢献することを見出した。休眠がん幹細胞の覚醒を促すYAPシグナルを阻害することで、化学療法後のがん再燃を抑制することが可能であった。これらの知見を通じて、がん生物学のより深い理解および新規治療戦略の開発につながることが期待される。
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