本研究は、大動脈瘤における慢性炎症の分子病態を解明し、新たな治療法の開発を目指すものである。研究代表者は、免疫細胞マクロファージへの過度な力学刺激が大動脈瘤組織の炎症を持続する鍵であると着想した。本研究では、過度な力学刺激がマクロファージのシグナル分子MAPK9活性化を介して、炎症を遷延化すると同時に修復を抑制していることを実証する。本研究は、大動脈瘤のみならず慢性炎症を基盤とする様々な難治疾患の克服に貢献できる可能性がある。本研究の目的は、異常な力学刺激と免疫細胞マクロファージとの連関が大動脈瘤組織における慢性炎症と進行性組織破壊及び修復不全を推進する鍵であることを実証することである。 そのため、令和4年度には、以下の計画を実施した。まず、令和3年度からの継続の計画Ⅱ-1では、組織再生治療システムのためのマクロファージ選択的MAPK9特異的阻害剤として、抗体含有微小粒子製剤を試作し、培養細胞実験系において抗体の種類や担体微小粒子の粒子径等の各種作製条件の最適化を試みた。しかし、低分子化合物MAPK9阻害剤の効果を上回る作製条件を見出すには至らなかった。そこで、令和4年度に実施する計画Ⅱ-2の疾患モデルマウス実験系における検証実験では、代替的に、低分子化合物MAPK9阻害剤を用いることとした。その結果、マウス大動脈瘤モデルの病変進行がそのMAPK9阻害剤によって阻止されることと組織の治癒傾向が認められることを確認した。
|