研究課題
方法:原発性肺癌切除標本からから肺癌オルガノイド(LCO)の樹立を試みた。切除後の肺癌組織を無菌状態で速やかに単細胞に解体した後、マトリゲルに包埋し肺癌用に調製した培地で培養開始した。LCOの樹立成功に関する臨床的、病理学的特徴を解析した。また元の腫瘍とLCO形態学的および分子生物学的な異同を検討した。ドライバー遺伝子を検出したLTOについてはそれぞれの分子標的薬に対する感受性を検討した。結果:55例の外科的に切除された原発性肺癌から43個のLCOを樹立した。成功率は43/55(78%)であり、その内訳は腺癌29/35(83%)、扁平上皮癌10/15(67%)、小細胞肺癌(SCLC)3/3(100%)、複合SCLC1/1(100%)、多形癌0/1(0%)であった。LCOの樹立に関する臨床的・病理学的な明らかな因子は確認できなかったが、腺癌の方が扁平上皮癌より樹立率が高い傾向であった。組織学的、免疫組織学的にはもとの腫瘍の形質をLTOは再現していた。LCOともとの腫瘍の突然変異の異同を確認し得た8組において、突然変異状態は概ね一致していたが、一致しない場合も観察された。原発腫瘍のheterogeneityやLTO樹立過程における変異の獲得の可能性が考えられた。8つのADCでEGFRの変異が検出された。EGFR変異のあるLCOでは、exon20insのLCOを除き、EGFR-TKIに対する感受性が良好であったが、同じEGFR変異を発現する細胞株と比較してIC50値がわずかに低かった。結論:肺切除を受けた肺癌患者からLCOを効率的に樹立することが可能となった。LCOsと元の腫瘍の組織学的および分子的特徴はほぼ保たれており、治療感受性や様々なバイオマーカーを評価するモデルとして臨床的にも有用であることが強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、樹立率78%をすでに達成しており、従来の細胞株の樹立率よりははるかに高率な水準を得ている。また、一般に細胞株樹立が困難とされる扁平上皮癌でも67%であり、研究開始当初としてはよい値だと認識している。また、さまざまな病理学形態学的、分子生物学的、細胞生物学的解析も可能であることも示されており、近未来の臨床的応用も強く期待される。
基本的なTLO樹立手技は確立されたが、実際の臨床応用等にむけて以下の点について検討を進める。1.培養液の組成は消化器系のオルガノイドのメディウムを参考に処方されているが、どの因子が必須因子であるかは明らかでない。現在の組成から試薬を除いていって、どの因子が必須であるかについての検討を行う。又、このような必要度が肺癌のタイプによって異なるのかについても検討する。2.凍結保存方法の改善 現在樹立したTLOを通常の細胞株と同じ条件で凍結保存した場合、融解後のviabilityが低下し、再増殖しないようなことが無視できない頻度であり、凍結条件の改善が必須であると認識している。凍結温度、凍結速度、凍結メディウムの検討により改善できるか否かを検討する。3.現在、手術検体のように大量の腫瘍細胞を含む検体からの樹立は可能になったが、感受性テスト等を臨床に応用していくためには小さい生検や胸水などの検体からの樹立が求められるので、そのような材料からの樹立を試みる。
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