研究課題/領域番号 |
20H03791
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北園 孝成 九州大学, 医学研究院, 教授 (70284487)
|
研究分担者 |
吾郷 哲朗 九州大学, 医学研究院, 准教授 (30514202)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 脳梗塞 / 組織修復 / 機能回復 / ペリサイト / マクロファージ / 制御性T細胞 / 細胞外マトリックスタンパク質 |
研究実績の概要 |
中大脳動脈永久閉塞によるマウス脳梗塞モデルを用いて,脳梗塞内部に局在するペリサイトをPDGFRβ,マクロファージをF4/80で組織染色すると,両者は梗塞周囲から梗塞中心に向かってほぼ同様に浸潤し,14-28日で梗塞内部全体を占拠した.この過程でF4/80陽性マクロファージは常にPDGFRβ陽性ペリサイトの近傍に存在していることを組織学的に明らかにした.ペリサイト機能が減弱したPdgfrb+/-マウスでは,F4/80陽性マクロファージの梗塞内浸潤が有意に遅延・抑制されていた.ペリサイトは梗塞内部の血流回復に寄与するのみならず,CCL2やCSF1を発現・分泌することにより単球・マクロファージの組織浸潤に積極的に関与していた.さらにペリサイト培養上清を培養マクロファージに添加すると,マクロファージの増殖・遊走が亢進するのみならずミエリンデブリス貪食能も亢進した.一方,ミエリンデブリスを貪食したマクロファージではbFGF/PDGF-Bなどペリサイト刺激因子の産生が増加していた.ミエリンデブリスを貪食させた培養マクロファージ上清を培養ペリサイトに添加すると,細胞外マトリックスタンパク質の一つであるフィブロネクチンの産生が有意に増加した.マクロファージはフィブロネクチンの存在下でミエリンデブリス貪食能をさらに亢進させた,さらに培養細胞と培養上清を組み合わせた検討により,ペリサイトはアストロサイトを介して,また,マクロファージは直接的に,梗塞周囲OPC分化を促進し機能回復に寄与することを明らかにした.ペリサイト・マクロファージによる組織修復が阻害されるPdgfrb+/-マウスでは,亜急性期以降の運動機能回復が不良であった.脳梗塞後,内皮細胞に沿って浸潤するペリサイトは,マクロファージを梗塞内へ積極的に動員し,ミエリンデブリスの除去・線維性修復を介して機能回復を促進していると考えられた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳梗塞発生後の梗塞内部組織修復機構について,ペリサイトと免疫細胞の一つであるマクロファージの密接な相互作用についての新知見を見出し,脳卒中研究最高峰の英文誌であるStroke誌に成果報告を行った.この論文は国際脳中学会2021において,2020年の注目論文としてシンポジウムに取り上げられた.また同論文の第一著者(大学院生)は日本脳卒中学会YIA(草野賞)を受賞した.この組織修復過程において細胞外マトリックスタンパク質が果たす興味深い知見を見出しており、すでに論文報告の準備を進めている.
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は,脳微小血管基底膜に存在する細胞外マトリックスタンパク質が,脳梗塞後どのように再分布され,梗塞内部の組織修復および梗塞周囲領域における神経ネットワーク再構築に対していかに寄与し,機能回復を導くかを明らかにする.また,単球・マクロファージのみならず,ペリサイトによるリンパ球(とくに制御性Tリンパ球)の梗塞内部への動員機構およびその意義ついて,これらを制御する細胞外マトリックスタンパク質の役割も絡めながら検討を進めていきたい.
|