研究課題
本研究は、グリオーマの再発・悪性転化に関連して生じる変化を、主にその多様な分子プロファイルデータの取得を基盤となる研究として施行することで同定し、その結果からグリオーマの悪性化機構や治療抵抗性獲得のメカニズムを解き明かすとともに、これを基にした治療法開発に至ることを目標としている。この目標に対して複数の方向からのアプローチを行っているが、特に、A)再発・悪性転化に伴うエピゲノム変化の網羅的解析を基にした腫瘍進展機構解明と治療標的創出、及び、B)再発・悪性転化に伴うグリオーマ微小環境の経時的変化解析による免疫逃避機構解明を行うための研究を、今回の中心的な研究課題として取り組んでいる。A)の再発・悪性転化に伴うエピゲノム変化の解析においては、近年、CDKN2A/B遺伝子のホモ欠失が、IDH変異を有する星細胞腫の悪性転化に関与していることが示されたため、これまで蓄積した臨床症例検体に対し、MLPA法、定量的リアルタイムPCR法、MTAP免疫染色などを組み合わせることで、CDKN2A/Bホモ欠失の症例、及び、片側アレルの欠失の症例を新たに抽出した。そして、そのゲノム異常の特徴や、ゲノムワイドなメチル化のプロファイルを、Infinium methyation EPICアレイなどを用いて解析を行った。また、悪性転化に関わる能動的脱メチル化を引き起こす因子につき、腫瘍微小環境などに着目して検討を行った。B)のグリオーマ微小環境変化の免疫関連解析においては、微小環境に存在する腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associated macrophage: TAM)の機能解析を行い、特に腫瘍やTAMより分泌されるサイトカインIL-1βにより、グリオーマ細胞の細胞増殖が3次元培養下にて引き起こされることを確認してきたが、そのメカニズムに、STAT3/NF-κB 経路が重要であることを示した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度において、A)の再発・悪性転化に伴うエピゲノム変化解析では、受動的脱メチル化に伴い発現が上昇し、悪性転化に関わる遺伝子として、IGF2BP3遺伝子の機能に着目した研究を継続した。研究を進めるにあたり、CDKN2A/Bの欠失など、新たにWHO病理診断に導入された悪性化関連因子と、IGF2BP3遺伝子の発現変化が、mRNAレベル及び蛋白レベルの双方にて関連しつつ生じているか等につき、新たな臨床検体を加えつつ再検証を施行した。能動的脱メチル化については、5-ハイドロキシメチルシトシン(5hmC)の変化のトリガーとなる微小環境変化に着目し、その妥当性について脳腫瘍細胞株モデルなどを使用しつつ解析評価した。また、5hmCの変化により引き起こされる遺伝子発現変化に関わる転写因子につきChIP PCRなどを用いて機能解析を施行することで、機序の解明を行った。B) グリオーマ微小環境変化の免疫関連解析においては、引き続き、熊大・細胞病理学講座と共同で、悪性神経膠腫再発に関わるTAMより分泌されるIL-1βなどの因子について、腫瘍幹細胞の性質や腫瘍増殖に与える影響を in vitroを中心に研究を進めた。特にmRNAプロファイル解析などにより、IL-1βにより引き起こされる変化に、STAT3/NF-κB 経路が重要であることを同定することができた。以上のように、当初計画した悪性化機構の解明に対する知見を証明しつつあり、順調に研究が進んでいると考えるが、現時点にて最終的な目標である治療法確立に向けた研究の進捗という観点からは、さらなる努力をする必要があると考える。
A)の再発・悪性転化に伴うエピゲノム変化解析の遂行における1)受動的DNA脱メチル化の解析においては、引き続き以前に悪性転化に関連するとして同定した、RNA修飾に関連することが知られるIGF2BP3の解析を、そのプロモーター脱メチル化の確認と、N6-メチルアデノシン(m6A)に対する影響を含めて進める。また、今回新たに確認したIDH遺伝子変異及びCDKN2A/Bホモ欠失を有するグレード4星細胞腫に対して、共同研究施設である東京大学先端科学技術研究センターと共同して施行したメチル化プロファイルデータについて、バイオインフォマティス解析と臨床検体を用いた検証を行い、その生物学的意義の解明を進める。2)能動的DNA脱メチル化に関する解析においても、これまで得られた知見を元にした、機構解明に関する研究をin silico 及び in vitroの実験にて遂行し、遂行し、論文作成を計画する。B) グリオーマ微小環境変化の免疫関連解析においては、特に、腫瘍随伴マクロファージの腫瘍再発・悪性化機構への寄与の解明に関して、引き続き、熊大・細胞病理学講座と共同での研究を進める。特に、悪性転化や治療抵抗性に関連して生じる、マクロファージの機能変化や、マクロファージ以外の免疫関連細胞の動態につき、免疫染色をはじめとした種々の方法にて解析し、これと臨床情報との統合解析を行う。以上のようなことから、悪性神経膠腫の治療標的となる有用な分子やシグナル伝達経路を同定し、その治療法を開発することに向け、引き続き努力を重ねたい。
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