研究課題/領域番号 |
20H03797
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研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
川端 信司 大阪医科薬科大学, 医学部, 准教授 (20340549)
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研究分担者 |
中村 浩之 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30274434)
田中 浩基 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (70391274)
熊田 博明 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (30354913)
服部 能英 大阪府立大学, 研究推進機構, 特認講師 (50514460)
呼 尚徳 大阪医科薬科大学, 医学部, 特別職務担当教員(助教) (90846908)
古瀬 元雅 大阪医科薬科大学, 医学部, 准教授 (70340560)
竹内 孝治 大阪医科薬科大学, 医学部, 非常勤医師 (40804109)
金光 拓也 大阪医科薬科大学, 医学部, 非常勤医師 (20851025)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 悪性神経膠腫 / 中性子捕獲反応 / 脳腫瘍 / がん治療 / ホウ素 / 中性子捕捉療法 / 画像診断 / 放射線治療計画 |
研究実績の概要 |
本研究は、複数ホウ素薬剤を同時併用し一回の中性子照射により悪性脳腫瘍の治療を行うホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の確立に向け、基礎研究の実施ならびに臨床治療例における解析を通じて、マルチターゲット型BNCTの臨床展開を目指す基盤研究である。 これまでに開発してきた新規ホウ素薬剤の中で、今年度はドラッグデリバリーシステムとしてアルブミン・コンジュゲートを用いる薬剤と既存薬であるBPAを併用するマルチターゲットに関し動物実験を展開している。併用使用に最適なホウ素化合物による標的手法として、本アプローチの有効性が確認でき、組織標的から細胞標的へと個別化を目指す創薬研究にフィードバックを行った。また、先行して使用してきた2種類のホウ素化合物(BPAおよびBSH)を同時併用したマルチターゲット型BNCTの臨床試験実施例に対する生物学的効果・反応を検討し、これらを照射計画画像に反映する基礎データを得た。生物学的効果の指標として、経過画像における組織反応と有害事象の発生をもとに、事前に予測しうる解析手法の基礎を立案した。各々の薬剤、BPAとBSHの集積範囲を治療前画像から照射計画に反映し、評価を継続していくこととした。 複数薬剤併用によるBNCTはこれまで研究代表者施設でのみ実施されてきており、併用による生物学的効果を事前に的確に線量計算に盛り込む手法が確立されていない。現在、加速器型の照射体系とホウ素薬剤BPAを基軸とする臨床試験を実施しているが、本研究を通じて今後必須となる新規ホウ素薬剤の開発研究と、複数ホウ素薬剤併用いよるマルチターゲット型BNCTの生物学的効果の解釈および薬剤開発に要求される至適条件を抽出し、将来的な臨床BNCTのニーズに応えていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界唯一の医療用加速器中性子源の開発に成功した本邦のBNCT研究であるが、海外における後発研究が近年盛んとなっており、“本邦発世界初”から本領域を先導し続けるためには、機器開発のみではなく薬剤や臨床的アプローチ、プロトコールの最適化等、多方面においても研究を加速し本領域を牽引していく必要がある。本研究では、中性子および薬剤の微視的分布の可視化の観点から複数ホウ素薬剤を同時使用する際のパラメータを算出し、画像上での線量分布の描画までを目指している。複数薬剤同時使用時にも再現性のある物理線量―組織反応の関係を明瞭化し、次世代型BNCTに要求される臨床課題を解決する研究として立案し、今年度には基礎研究から得られた解析にもとづき、マルチターゲット型BNCTの線量計画への反映と、複合的な生物学的効果の解釈手法を確立してきた。BNCTの持つDNA2本鎖切断の効果と放射線治療という特性から見た線量反応関係を致死的線量付与の割合をもとに外科的視点を交えて見直すことで、新たな視点からこの複合的解釈を可能としている。また、臨床例での生物学的効果の解析においては、計画立案時の予想通りの解析結果が示され、これら基礎・臨床双方において研究進捗上の方向転換することなく進んでいる。今年度は基礎研究で有用性を示してきた他のホウ素薬剤との併用療法にも適応し、あらゆる薬剤においてもマルチターゲット型NCTの解析が可能となる照射計画のアルゴリズムを見出していくこととし、他の新規ホウ素薬剤やガドリニウム薬剤での解析に応用可能となればさらなる研究成果の排出と基盤研究の創出が可能となる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
新規の薬剤を用いた複数薬剤併用による脳腫瘍モデルを用いた中性子照射時の生物学的効果を検証している。臨床例の画像評価に関しては、複数薬剤併用時の線量計画への反映と、これに呼応した臨床経過との相関について解析を開始している。これらをもとに次年度は一元的に設定可能なパラメータの抽出・整理とその効果との相関および予測に関し計算条件を抽出し環境整備を行う。 ①生物学的効果の評価:あらたな複数薬剤併用時の線量評価を可能とするため、混合薬剤暴露下での培養細胞への中性子照射群を細胞持続モニタリングを用いて追加評価する。モデル動物を用い、各薬剤から得られる組織内濃度を組み合わせる表現手法を普遍化する。また正常組織への影響を解析し、薬剤相互作用に着目した検証実験を継続する。②ホウ素薬剤生合成・開発:今年度も新たな化合物を試用し、有用性が確認できている。次年度も併用を見据えた創薬へのフィードバックを行い、微視的・巨視的双方の観点から分布予測に向けた薬剤創出を行う。③ホウ素(10B)および薬剤微視的分布の可視化:中性子捕獲反応そのものを可視化するアルファ・オートラジオグラフィー(ARG)を用いてホウ素(10B)の微視的分布を可視化する。また、ホウ素基を認識する抗体(ホウ素センサー)および色素・蛍光プローベを利用し、複数薬剤併用時のミクロレベルのホウ素(10B)分布の解析と項目④との連携研究を継続する。④複数薬剤使用の線量計画への反映:マルチターゲット型BNCTにおける臨床経験から、今年度に治療症例の画像解析にもとづいた線量計画への反映を行っており、マルチターゲット型BNCTの線量計画の実装に向けた検証を継続する。次年度は、項目①②③から得られるパラメータを統合的に反映し、照射計画への反映と治療前の予測精度を向上させていく。
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