研究実績の概要 |
我々は、椎間板変性を進行させるMMPsの発現を阻害するADAMTS-5のsiRNAにより椎間板変性を抑制することを報告し(Arthritis Res Ther, 2009)、さらにその上流のc-fos/AP-1阻害薬 (T-5224)で椎間板変性、破壊抑制効果と疼痛軽減能力を発見した(Sci Rep. 2017)。一方で、腰椎椎間板疾患の感受性遺伝子としてCILPを同定し、椎間板疾患になりやすいメカニズムを証明した(Nat Genet, 2005)。次に髄核特異的にCILPが発現するTgマウス、すなわちヒトの加齢変性に類似したマウスを作成した(Biochem Biophys Res Commun, 2014)。また、軟骨細胞の起源同定、Sik3KOマウスや膝関節軟骨欠損モデルを用いて軟骨再生にも取り組んだ (Nat Commun, 2016, Transplantation, 2012, Tissue Eng Part A, 2016)。さらに近年、scRNA-seq解析にて破骨細胞の起源の一部が、hematopoietic stem cell(HSC)でなく胎児yolk-sac (YS)由来することを世界で初めて報告した(Nat cell biol, 2019)。本研究目的は、このCILP Tg(加齢モデル)と椎間板穿刺モデルを用い、T-5224投与後の疼痛軽減メカニズムを解明し、新規疼痛関連蛋白質の同定を行うことである。またサル椎間板穿刺モデルにおける椎間板修復・疼痛軽減効果を検証する。さらに椎間板が高度に破壊されたヒトを対象に、sc-RNA seq(single-cell RNA sequence)解析によりヒト皮膚細胞よりiPS髄核細胞、線維輪細胞の作成、スフェロイドで3D椎間板組織の作成、ヌードラットへの移植で、椎間板再生法の確立を目指すことである。
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今後の研究の推進方策 |
sc-RNAseq解析によるiPS髄核・線維輪細胞の樹立と3D椎間板構築:実際にヒトへの椎間板移植となると個人の髄核細胞の使用は難しく、3D椎間板組織構築には、多量の細胞が必要である。そこでヒト皮膚細胞を髄核・線維輪細胞に分化させ、その細胞を用いて3D構築することが望ましい。そこでヒト皮膚細胞に2因子(c-myc,klf4)および候補因子(Sox5,6,9,Noto遺伝子)を導入しヒト皮膚細胞から直接髄核・線維輪細胞を樹立(directreprogramming)する (Biochem Biophys Res Commun, 2011, PLoS One, 2013, Bone, 2015)。個々の髄核細胞のphenotypeばらつきの解決策として、遺伝子導入後の細胞群から髄核、線維輪細胞のsc-RNAseq解析によっていくつかの細胞集団に分類し、髄核特異的マーカーCD24とAGC陽性かつ(Biochem Biophys Res Commun. 2005)、CD34とCD13陰性(血球系マーカー)のシングルセルレベルの細胞集団でcell typeのclusteringを行う。このclusteringには主に髄核特異的遺伝子かつ血球系特異的遺伝子陰性の確実な髄核細胞のみピックアップする。すなわち発現遺伝子から細胞集団を特定してセルソートし、単一な細胞集団を決定する方法を用いる。最後にRNA splicingパターンからlineage interferenceも行い、最終的に髄核細胞集団、線維輪細胞集団をより効率的にピックアップする方法を検討する。また、3D構築した組織強度が十分でない場合、PLGA(乳酸・グリコール酸共重合体)のscaffoldを用いて3D構築も検討する (Transplantation, 2012, Tissue Eng Part A, 2016)。
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