研究課題/領域番号 |
20H03824
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
梶山 広明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00345886)
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研究分担者 |
芳川 修久 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (60804747)
柴田 清住 藤田医科大学, 医学部, 教授 (90335026)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵巣癌 / 腹膜 / 脂肪細胞 / 腹膜中皮細胞 / 細胞間クロストーク |
研究実績の概要 |
本課題では、腹腔内全体を一つの包括的環境基軸と見なし、腹膜中皮-脂肪(土壌)-卵巣癌(種)を1つのユニットとして捉えた上でその相互作用に着目し、卵巣癌の悪性化・腹膜進展機構を解明することを目的としている。
本年度の研究成果において、独自の天井培養法によって大網から脱分化脂肪由来間葉系細胞(ADSC)が有する卵巣癌悪性化への影響を調べ、卵巣癌細胞の増殖の促進及び卵巣癌細胞の遊走能亢進、in vivo での腫瘍形成能の増大が誘導されることを、in vivo imaging system (IVIS)を用いた実験系により示すことに成功し、一連の成果をもとに論文化を行い、International Journal of Cancerに採択された。一方で、本研究の過程において、卵巣癌腹膜播種モデル動物を詳細に観察する際に、卵巣癌細胞が脂肪細胞の近傍に効率的に接着する所見を得た。これは脂肪細胞の直上に存在する腹膜中皮細胞に卵巣癌細胞がより接着しやすい傾向にあることを示唆していることから、同部位の電子顕微鏡による評価や、網羅的発現分子解析を行い、卵巣癌接着の標的となりうる候補物質を複数同定した。
また、進行卵巣癌の腹膜微小環境において卵巣癌関連腹膜中皮細胞(ovarian cancer-associated mesothelial cells: OCAM)が卵巣癌の進展に深く寄与することをこれまでに同定しているが、正常腹膜中皮細胞がOCAMへと変貌する過程を抑制する候補物質としてcalcitriol(ビタミンD)が有望であることを実証し、本研究内容にて制作した論文が国際雑誌Matrix biologyに採択された。これらの成果を背景に、本研究課題の目的である、腹腔内を包括的環境と捉えた腹膜中皮-脂肪-卵巣癌というユニットを解釈し、治療標的とすることを目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、以下の項目に該当する内容に関する成果を挙げることができたと考える。 ①卵巣癌関連腹膜中皮細胞―脱分化脂肪細胞―卵巣癌を1つのユニットとして捉えた上で卵巣癌の悪性化・腹膜進展機構の包括的解明を目指す、②ADSCが卵巣癌関連腹膜中皮細胞(OCAM)や腫瘍関連マクロファージと協調して、腫瘍細胞の局所免疫回避や休眠維持、腹腔内進展をもたらすメカニズム解明する: 上述の通り、ADSCにより、卵巣癌細胞に遊走能、in vivo での腫瘍形成能の増大が誘導されることを各種実験系により示すことに成功し、一連の成果をもとに論文化を行い、国際雑誌International Journal of Cancerに採択された。
また本研究の過程において、卵巣癌腹膜播種モデル動物を詳細に観察する際に、卵巣癌細胞が脂肪細胞の近傍に効率的に接着する所見を得ることができた。これは、脂肪細胞の直上に存在する腹膜中皮細胞に卵巣癌細胞がより接着しやすい傾向にあることを示唆している。すなわち、脂肪細胞に近接する腹膜中皮細胞と、脂肪細胞に近接しない腹膜中皮細胞との間には、生理的な構造が異なっている可能性が考えられる。こうした所見を局所レベルで詳細に観察することを目的とし、同部位の電子顕微鏡による評価や、網羅的発現分子解析を行い、卵巣癌接着の標的となりうる候補物質を複数同定した。さらに正常腹膜中皮細胞がOCAMへと変貌する過程を抑制する候補物質としてcalcitriol(ビタミンD)が有望であることを実証し、本研究内容にて制作した論文が国際雑誌Matrix biologyに採択された。
また昨年度に引き続き、卵巣癌患者の臨床情報を後方視的に探索し、腹膜播種の増悪に関与する環境因子の同定を、患者背景から推論する疫学的研究を並行して行い、さらに複数の論文報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた結果を、より具体的な成果へと昇華させるべく研究を推し進める。また、当初の目的である、新規蛍光プローブによる定量的脱分化評価システムの確立と、化合物ライブラリーから脱分化阻害剤の探索及び、播種巣周囲の腹膜微小環境に着目した新規治療戦略の探求を継続して行う。さらに、OCAMやADSCを標的とした治療候補物質の探究をケミカルライブラリーやドラッグライブラリーを用いて検証し、臨床応用を見据えた研究基盤の確立も目指す。加えて引き続きトランスレーショナルなアプローチを用いて基礎・臨床横断的な医学研究を推進し、腹腔内全体を一つの包括的環境基軸と見なした研究を継続して行く。
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