研究課題
HPV陽性中咽頭癌ではHPV16によるものが多くを占めており、HPV16 E6/E7 oncoproteinは発がんにおいて重要な役割を果たしているのみならず、がん抗原としてT細胞に認識されることがわかっている。HPV16 E6はTP53がん抑制遺伝子によってコードされるp53タンパクを分解し、その機能を不活化させる。この過程でp53由来ペプチドの抗原提示が促進されると言われており、wild-type (wt)- p53もがん抗原となり得る。23例のHPV陽性中咽頭癌患者の末梢血を用いてHPV E6/E7およびwild-type p53に対するT細胞免疫応答について検討した。HPV陽性中咽頭癌患者の末梢血単核球を分離、E6/E7由来およびwt-p53由来のペプチドによるin vitro stimulation (IVS)を行い、抗原特異的T細胞数をIFN-γELIPOTにて検出した。23名中22名(95.7%)でHPV16 E6/E7特異的T細胞応答が同定された。またwt-p53については20名中3名(15.0%)でT細胞応答が同定された。IVSの際に抗PD-1抗体を添加して、反応が増強されるかどうかを解析したところ、HPV E6/E7では23名中3名(13.0%)であったが、wt-p53では20名中7名(35.0%)に反応の増強を認めた。PBMCの一部についてフローサイトメトリーを用いてT細胞subsetsやT細胞上の免疫チェックポイント分子の発現を解析したところ、抗PD-1抗体によるwt-p53特異的T細胞応答の増強を認めた患者群は、増強を認めなかった患者群よりも末梢血中のKi-67+CD4+T細胞、CD69+CD4+T細胞、Ki-67+CD8+T細胞の比率が有意に高かった。今後、他の免疫チェックポイント分子についても同様の検討を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、HLA-A24陽性HPV陽性患者の末梢血単核球からHPV16およびwt-p53抗原特異的T細胞応答検出の実験系をつかって、計23例の症例について解析を行ない、これらのがん抗原の反応性の違いを明らかにすることができた。予想されたようにほぼ全例のHPV陽性中咽頭癌患者の末梢血中にHPV16 E6/E7特異的T細胞が存在することが明らかにできた。一方、HPV E6/E7に比してwt-p53に対する免疫応答が同定される症例数は少ないだけでなく、IFN-γ産生量も低い結果であった。更に抗PD-1抗体存在下による免疫応答の増強について調べたところHPV16 E6/E7に比べてwt-p53特異的T細胞応答の増強が高頻度で認められ、そこには末梢血中のKi-67+CD4+T細胞、CD69+CD4+T細胞、Ki-67+CD8+T細胞が関与していることが明らかになった。今回はHLA-class I(A24)拘束性エピトープを抗原として使用したが、これを認識するCD8+T細胞の活性化にはCD4+T細胞の活性化も重要であることが示唆される結果であった。また、抗PD-1抗体による免疫増強効果においては、抗原性や抗原のavidityなどによる違いも影響している可能性が示唆された。以上のように、研究の進捗状況は順調に進んでいると考えている。
HPV陽性頭頸部癌患者の末梢血中のHPV16 E6/E7およびwt-p53特異的T細胞応答の検出実験系を用いて、PD-1以外の免疫チェックポイント分子としてCTLA-4、TIM-3、LAG-3を阻害することで、がん抗原特異的T細胞応答の変化を評価する。さらに抗PD-1抗体による免疫チェックポイント阻害実験と同様に末梢血中のT細胞サブセットや免疫チェックポイント分子と免疫応答の変化との関係を解析する。当研究で用いたHPV陽性中咽頭癌患者のすべての癌組織サンプルについてp53の免疫染色を行い、p53集積がない(wild-type p53である)ことを確認する。抗PD-1抗体におけるがん抗原特異的T細胞応答の増強には末梢血中のKi-67+CD4+T細胞、CD69+CD4+T細胞、Ki-67+CD8+T細胞の比率が高いことが関わっていることが示唆されたので、実際の臨床において抗PD-1抗体によって治療された再発・転移頭頸部癌患者の末梢血データと治療効果および予後との関連を解析する。HPV陽性頭頸部癌患者のうち手術を行う症例からは末梢血単核球とともにtumor-infiltrating lymphocytesの分離を行い、これにがん抗原(HPV16 E6/E7およびwt-p53)+抗PD-1抗体を作用させることで免疫応答(IFN-γ産生)の変化やがん抗原特異的T細胞/制御性T細胞の比率の変化を解析することで、免疫チェックポイント阻害剤とワクチン療法の併用効果の可能性を検討する。
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