研究実績の概要 |
糖尿病網膜症は重篤な視機能障害をきたす疾患であり、その病態理解は眼科学における重要課題である。これまでの糖尿病網膜症治療はその血管病態を制御することを目的とされてきたが、近年、糖尿病網膜症における「神経病態」が注目されている。しかし、糖尿病網膜症における神経保護的治療法は現在のところ確立されていない。グリセルアルデヒド由来の終末糖化産物(Glycer-AGE)は、その細胞障害性の強さからToxic AGE(TAGE)とも呼ばれ、糖尿病網膜症を含む様々な疾患での病態形成への関与が報告されている。申請者グループの検討により、このTAGEが糖尿病モデルマウスの視細胞変性に寄与していることが明らかになった。本研究では、TAGEによる網膜神経病態の機序を解明し、さらにTAGEを標的とした創薬開発を行い、糖尿病網膜症の新規治療法開発を目指し検討を行なった。 ヒト培養網膜色素上皮細胞(RPE)を用いたin vitro実験では、TAGEがRPEのバリア機能を低下させることが明らかになった。またRPE細胞にグリセルアルデヒドを添加してTAGE化反応を誘導し、抗TAGE抗体による免疫沈降後MS解析を行い、TAGE化される標的タンパク候補を同定した。臨床検体を用いた解析において、糖尿病網膜症(DR)患者の血清中で同定されたTAGE化標的タンパクの濃度を測定したが、非DR症患者の対照群と比較し有意な変化は認められなかった。また、同血清検体中でTAGE濃度とTAGE化標的タンパク候補の相関についても検討を行なったが、両者に有意な相関は認められなかった。DR患者の血清中TAGE濃度は非DR患者の対照群と比較し増加傾向を示したが有意な差ではなかった。一方、カルボキシメチルリジン(Nε-(carboxymethyl) lysine, CML)を含むAGEsの濃度は糖尿病網膜症患者で有意に増加していた。
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