正常皮膚線維芽細胞に伸展刺激を加えることで、細胞のアポトーシスがどのように変化するかを解析した。伸展刺激後の皮膚線維芽細胞と伸展刺激をしていない皮膚線維芽細胞で、それぞれのCaspase3、Bax、Bcl2について発現量をウエスタンブロットで確認したところ、Bcl2では差は見られなかったものの、伸展刺激をした皮膚線維芽細胞でCleaved Caspase3およびBaxの発現量の減少を認めた。そのため、皮膚線維芽細胞では伸展刺激を加えることでアポトーシスが抑制される可能性が示唆された。 伸展刺激はRho/ROCK/LIMK2/cofilin経路を活性化することは知られており、このRho経路を阻害することでアポトーシスなどを制御できる可能性があると考え、我々はLIMK2に着目して調査を行った。まず、不活性型のLIMK2を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを作成した。このウイルスベクターを用いて正常皮膚線維芽細胞に不活性型LIMK2を導入すると、コントロール群と比較して細胞増殖能が大きく阻害されることが判明した。これによりRho経路が細胞のアポトーシスのみならず、細胞増殖も制御していると考えられた。さらに、各群について、Caspase3、Bax、Bcl2の発現量をウエスタンブロットで確認したところ、Caspase3、Baxについては変化を認めなかったものの、Bcl2の発現がLIMK2不活性化群において低下していることが確認できた。Bcl2は抗アポトーシスタンパクとして機能しているが、Rho経路の下流にあるMRTFにより制御を受けているという報告がある。 すなわち、LIMK2の機能を阻害することは、細胞増殖を低下させ、分化も抑制し、Bcl2の発現を低下させることで細胞をアポトーシスに誘導できる可能性があり、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療薬を検討する上で重要な因子であると考えられた。
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