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2020 年度 実績報告書

シングルセル解析による口腔がんの増殖と運動・転移を司るメカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 20H03851
研究機関東京医科歯科大学

研究代表者

渡部 徹郎  東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (00334235)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード口腔がん / 増殖 / 運動 / 転移 / シングルセル解析 / TGF-β
研究実績の概要

がん細胞は増殖能と運動能を獲得することで遠隔臓器へと転移するが、我々は「増殖している細胞が運動する」という通念を持っている。しかし、様々ながんの転移を誘導するTGF-βは、がん細胞の増殖を抑制しながら運動を亢進し、その相反する作用の関係については未解明な部分が多く残されている。研究開発代表者は細胞周期をシングルセルレベルで可視化できる蛍光プロープ(Fucci)を導入した口腔扁平上皮がん細胞を用いて細胞レベルならびに個体レベルの解析を進めた結果、TGF-βによる増殖と運動・転移能の制御に関する新たな知見を得るとともに、その現象を制御する実行因子の候補を同定した。そこで本研究では得られた候補因子による細胞増殖と運動能の制御を司る分子機序を明らかにして臨床的意義を検討することで、がん転移における新規診断マーカーならびに治療標的の同定を目指している。今年度は下記の2つの項目について研究を実施した。
(1) TGF-βによるがん悪性化と細胞周期の連関を司る分子機構の解明
(2) がん細胞の転移と細胞周期の動態の検討
その結果、口腔がん細胞の増殖と運動能を制御する候補因子が口腔がんの増殖を抑制するとともに、運動能を亢進することを見出した。さらに、同所(舌)移植モデルを用いて、候補因子の遺伝子を欠損させることで転移能が低下することを見出した。以上の結果から、今回同定したTGF-βにより発現が上昇する細胞増殖と運動・転移能を制御する候補因子は口腔がんの新規治療標的となることが期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究においては、がん転移において重要な役割を果たすTGF-βシグナルによるがん細胞の増殖抑制と運動亢進に着目して、(1) TGF-βががん細胞の増殖と運動を制御する統合的なメカニズムを分子・細胞レベルで解明して、(2) 転移をしているがん細胞のシングルセルレベルの動態を前臨床モデルにおいて検討することで、新規がん治療の標的となるような転移を亢進する候補因子を同定し、(3) これらの知見の臨床的意義を検討することを目的とする。今年度は下記の2つの項目について研究を実施した。
(1) TGF-βによるがん悪性化と細胞周期の連関を司る分子機構の解明
研究開発代表者はすでに口腔がん細胞の増殖と運動能を制御する候補因子を同定したが、そのがん悪性化における関与については未解明な部分が多い。そこでTGF-βによるがん悪性化と細胞周期の変化における候補因子の役割を検討するために、今年度は当該遺伝子の発現を上昇させたFucci口腔がん細胞を樹立して、細胞増殖と運動能を解析した。その結果、当該遺伝子の発現により、口腔がん細胞の細胞増殖は低下し、運動能は上昇した。以上の結果から、当該遺伝子はTGF-βによる細胞増殖と運動能の制御の実行因子であることが示唆された。
(2) がん細胞の転移と細胞周期の動態の検討
TGF-βによるがん細胞の増殖と運動の制御との関連性を個体レベルで検証することを目的とし、細胞増殖を休止した細胞が実際に転移をしていて、TGF-βシグナルや(1)で同定された候補因子を抑制することで転移がどのように制御されるか前臨床モデルを用いて検討する。今年度は候補因子を欠損したFucci口腔がん細胞を同所(舌)移植したところ、野生株と比較して転移能が低下していることがあきらかとなった。以上の結果から当該遺伝子は転移能を亢進することが示唆された。

今後の研究の推進方策

これまでTGF-βにより発現が上昇する細胞増殖と運動・転移能を制御する候補因子を同定することができたため、引き続きがん転移において重要な役割を果たすTGF-βシグナルによるがん細胞の増殖抑制と運動亢進に着目して、(1) TGF-βががん細胞の増殖と運動を制御する統合的なメカニズムを分子・細胞レベルでさらに詳細に解析し、(2) 転移をしているがん細胞のシングルセルレベルの動態を前臨床モデルにおいて検討し、(3) これらの知見の臨床的意義を検討することを目的とする。今年度は下記の項目について研究を実施することを計画している。
(1) TGF-βによるがん悪性化と細胞周期の連関を司る分子機構の解明
研究開発代表者はすでに口腔がん細胞の増殖と運動能を制御する候補因子を同定したが、その分子機序については未解明な部分が多い。そこで当該遺伝子が口腔がん細胞の増殖と運動能の制御機構を明らかにするために、当該遺伝子を欠損したFucci口腔がん細胞を用いてRNA sequencing解析を行い、当該遺伝子により発現が制御される、細胞増殖と運動能を調節する実行因子の同定を試みる。
(3) 臨床的意義の検討
研究開発代表者はすでに口腔がん細胞の増殖と運動能を制御する候補因子を同定したが、その分子機序については未解明な部分が多い。そこで、口腔がん患者の公開データベースを用いて当該遺伝子の発現が臨床情報と相関しているか検討する。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Angiogenic Effects of Secreted Factors from Periodontal Ligament Stem Cells2021

    • 著者名/発表者名
      Iwasaki Kengo、Akazawa Keiko、Nagata Mizuki、Komaki Motohiro、Peng Yihao、Umeda Makoto、Watabe Tetsuro、Morita Ikuo
    • 雑誌名

      Dentistry Journal

      巻: 9 ページ: 9~9

    • DOI

      10.3390/dj9010009

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ASK1 suppresses NK cell‐mediated intravascular tumor cell clearance in lung metastasis2021

    • 著者名/発表者名
      Fujimoto Makoto、Kamiyama Miki、Fuse Kosuke、Ryuno Hiroki、Odawara Takeru、Furukawa Natsuki、Yoshimatsu Yasuhiro、Watabe Tetsuro、Prchal‐Murphy Michaela、Sexl Veronika、Tahara Hideaki、Hayakawa Yoshihiro、Sato Takehiro、Takeda Kohsuke、Naguro Isao、Ichijo Hidenori
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 112 ページ: 1633~1643

    • DOI

      10.1111/cas.14842

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] TGF-beta and TNF-alpha cooperatively induce mesenchymal transition of lymphatic endothelial cells via activation of Activin signals2020

    • 著者名/発表者名
      Yoshimatsu Yasuhiro、Kimuro Shiori、Pauty Joris、Takagaki Kazuki、Nomiyama Sanae、Inagawa Akihiko、Maeda Kentaro、Podyma-Inoue Katarzyna A.、Kajiya Kentaro、Matsunaga Yukiko T.、Watabe Tetsuro
    • 雑誌名

      PLOS ONE

      巻: 15 ページ: e0232356

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0232356

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] TNF‐α enhances TGF‐β‐induced endothelial‐to‐mesenchymal transition via TGF‐β signal augmentation2020

    • 著者名/発表者名
      Yoshimatsu Yasuhiro、Wakabayashi Ikumi、Kimuro Shiori、Takahashi Naoya、Takahashi Kazuki、Kobayashi Miho、Maishi Nako、Podyma‐Inoue Katarzyna A.、Hida Kyoko、Miyazono Kohei、Watabe Tetsuro
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 111 ページ: 2385~2399

    • DOI

      10.1111/cas.14455

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Peptide‐2 from mouse myostatin precursor protein alleviates muscle wasting in cancer‐associated cachexia2020

    • 著者名/発表者名
      Ojima Chiharu、Noguchi Yuri、Miyamoto Tatsuki、Saito Yuki、Orihashi Hiroki、Yoshimatsu Yasuhiro、Watabe Tetsuro、Takayama Kentaro、Hayashi Yoshio、Itoh Fumiko
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 111 ページ: 2954~2964

    • DOI

      10.1111/cas.14520

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Targeting all transforming growth factor-β isoforms with an Fc chimeric receptor impairs tumor growth and angiogenesis of oral squamous cell cancer2020

    • 著者名/発表者名
      Takahashi Kazuki、Akatsu Yuichi、Podyma-Inoue Katarzyna A.、Matsumoto Takehisa、Takahashi Hitomi、Yoshimatsu Yasuhiro、Koinuma Daizo、Shirouzu Mikako、Miyazono Kohei、Watabe Tetsuro
    • 雑誌名

      Journal of Biological Chemistry

      巻: 295 ページ: 12559~12572

    • DOI

      10.1074/jbc.RA120.012492

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Activation of β2‐adrenergic receptor signals suppresses mesenchymal phenotypes of oral squamous cell carcinoma cells2020

    • 著者名/発表者名
      Sakakitani Shintaro、Podyma‐Inoue Katarzyna A.、Takayama Rina、Takahashi Kazuki、Ishigami‐Yuasa Mari、Kagechika Hiroyuki、Harada Hiroyuki、Watabe Tetsuro
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 112 ページ: 155~167

    • DOI

      10.1111/cas.14670

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Tubulin carboxypeptidase activity of vasohibin-1 inhibits angiogenesis by interfering with endocytosis and trafficking of pro-angiogenic factor receptors2020

    • 著者名/発表者名
      Kobayashi Miho、Wakabayashi Ikumi、Suzuki Yasuhiro、Fujiwara Kashio、Nakayama Masanori、Watabe Tetsuro、Sato Yasufumi
    • 雑誌名

      Angiogenesis

      巻: 24 ページ: 159~176

    • DOI

      10.1007/s10456-020-09754-6

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Roles of TGF-β family signals during formation and maintenance of blood and lymphatic vascular systems2020

    • 著者名/発表者名
      Tetsuro Watabe
    • 学会等名
      International Vascular Biology Meeting 2020
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Oral squamous carcinoma cells under TGF-β-induced cell cycle arrest represent highly motile and invasive population2020

    • 著者名/発表者名
      Katarzyna A. Inoue, Kazuki Takahashi, Maki Saito, Atsushi Kaida, Akinari Sugauchi, Toshihiro Uchihashi, Yasuhiro Yoshimatsu, Susumu Tanaka, Masahiko Miura, Mikihiko Kogo, Tetsuro Watabe
    • 学会等名
      AACR Virtual Special Conference: Tumor Heterogeneity: From Single Cells to Clinical Impact
    • 国際学会
  • [学会発表] TNF-αはTGF-βシグナルの増強を介してTGF-βによって 誘導される血管の内皮間葉移行を促進する2020

    • 著者名/発表者名
      若林育海,吉松康裕,紀室志織,高橋直也,高橋和樹,伊東史子,小林美穂,井上カタジナアンナ,宮園浩平,渡部徹郎
    • 学会等名
      第93回日本生化学会大会

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公開日: 2023-12-25  

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