研究課題
本課題では、生活習慣病胎児期起源説(DOHaD)の概念に基づき、妊娠母体の様々な栄養状態が児の将来の肥満および糖脂質代謝異常におよぼす影響について、骨基質蛋白質であるオステオカルシン(OC)に着眼した解析を行なっている。従来より、OCが細胞レベル、個体レベルで多岐にわたる作用を以てエネルギー代謝を改善することを報告してきたが、妊娠母体に投与したOCが胎児のみならず成熟後の個体にもエネルギー代謝改善作用をもたらすことが確認できた。例えば、妊娠母体の高脂肪食摂取で、児の肝臓におけるグリコーゲン分解酵素遺伝子の高メチル化が生じており、当該遺伝子の発現が制御されていたが、妊娠母体へのOC摂取ではそのメチル化異常および発現異常が改善されていた。実際に、肝におけるグリコーゲンや当該酵素の酵素活性量を解析したところ、妊娠母体の高脂肪食負荷によって児の肝グリコーゲンの蓄積が顕著であり、母体由来OCによって肝グリコーゲンの減少が認められた。さらに、骨芽細胞特異的であるとされているOCの肝臓での局在も確認でき、OC添加によるグリコーゲン分解酵素発現促進作用が細胞培養実験により証明できた。以上のことから、本研究課題の仮説の1つである肝グリコーゲン分解に関わる酵素群のエピゲノム制御で発現誘導→肝グリコーゲン枯渇→脂肪分解亢進へのスイッチング→肥満回避の一部が証明できた。また、OC投与妊娠母体の産仔において、授乳中あるいは離乳時でも肝OCの発現が亢進していることが分かった。さらに、妊娠母体のOne carbon metabolism関連栄養素の欠乏で、離乳時での仔の肝臓において、OCの発現が減少していること、また、成熟後の食餌性肥満感受性が上昇することが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
研究分担者1人の所属研究機関が変更になったので、それに伴う動物実験計画の倫理審査について、COVID-19の影響で想定外の時間を要したが、その後の解析は順調に進んでいる。特に、妊娠母体のOne carbon metabolism関連栄養素の欠乏が、次世代の肥満誘導に大きく寄与している知見が得られたこと、また、肝臓におけるOCの存在が確認できたこと等、本研究課題の大前提の仮説が実証されたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
1. OC投与妊娠母体の産仔における肝OC発現のメカニズムについて明らかにする。また、肝OCの役割について、エネルギー代謝の側面から解析する。2. 妊娠母体のOne carbon metabolism関連栄養素の欠乏で、仔の肝臓において、OCの発現が減少していたが、このことが前述のグリコーゲン分解酵素の制御機構と関連しているのかについて明らかにする。また、成熟後の食餌性肥満感受性の上昇と肝OCと直接相関があるのかについて明確にする。
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