研究課題
令和3年度は、妊娠母体に投与したオステオカルシン(OC)が、胎児および産仔のエネルギー代謝改善作用をもたらすことを証明し、専門学術誌に報告した。その具体的内容としては、妊娠母体の高脂肪食摂取により、児の肝臓におけるグリコーゲン分解酵素Pygl遺伝子のプロモーター領域にDNAメチル化が高頻度に生じることで当該遺伝子の発現および酵素活性が低下し、グリコーゲンの蓄積が生じた。一方、妊娠母体へのOC投与によって、そのメチル化異常、グリコーゲンの蓄積異常が改善した。また、肝OCが、グリコーゲン分解酵素の発現促進作用を直接誘導すること、ならびに、妊娠母体に投与したOCが胎児の肝OC発現をフィードフォワード的に制御する機構が存在することを実証した。以上の内容から、母体に与えられたOCをキッカケとして誘導された仔の肝OCがグリコーゲン分解、またそれに続く脂肪分解を促進させ、肥満回避に寄与している事実を裏付けた。さらに、前年度までに、妊娠母体のOne carbon metabolism関連栄養素(特に葉酸)の欠乏で、産仔の成熟後の肝OC発現が低下することや、食餌性肥満の感受性が上昇することを確認していた。そこで、その肥満誘導機序を調べる目的で、産仔の白色脂肪組織と肝臓における網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、産仔におけるOne carbon metabolism関連遺伝子群の制御異常が示唆され、妊娠母体の葉酸不足が、成熟後の産仔においても葉酸-メチオニン経路に影響し、脂質代謝を低下させている可能性を見出した。培養細胞を用いた実験では、肝OCの発現量に応じて、脂質代謝の効率が変化することも示唆されていることから、妊娠母体のOne carbon metabolism異常が、肝OC遺伝子エピゲノム制御を介して仔の肥満を誘導しているという仮説の実証に近づいた。
2: おおむね順調に進展している
仮説の1つ(妊娠母体へ投与した OC がキッカケとなり、産仔の内在性 OC 発現促進→ 肝グリコーゲン枯渇 → 脂肪分解亢進へのスイッチンク→ 肥満回避)を実証し、専門学術誌に報告した。また、本研究課題のもう1つの命題である、母体のOne carbon metabolism制御異常と産仔の肥満感受性上昇についての関係についても、その制御機構に関与する具体的な分子が特定できたことから、分子基盤解明に向けて方向性が固まった。これらのことから、おおむね順調に進展していると判断した。
1.妊娠母体の葉酸不足が、成熟後の産仔においても葉酸-メチオニン経路に影響していたことについて、One carbon metabolism関連遺伝子群におけるエピゲノム異常(特にDNAメチル化異常)の関与を検証する。2.R3年度に行った実験により、肝OCが糖代謝のみならず、脂質代謝にも関与している可能性が示唆された。そのため、肝OCの脂質代謝への関与の有無とそのメカニズムについて明確にする。
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