研究課題
これまでに、妊娠母体のOne carbon metabolism(OCM)関連栄養素(特に葉酸)の欠乏で、産仔の成熟後の肝OC発現が低下することや、食餌性肥満の感受性が上昇することを確認していた。そのため、令和4年度は、それら産仔の白色脂肪組織と肝臓における網羅的遺伝子発現解析(RNAseq)結果を手掛りとして、妊娠母体のOCM関連栄養素の不足が産仔の葉酸-メチオニン経路に及ぼす影響に着目した解析を進め、産仔の脂質代謝の低下が如何なるメカニズムで生じているのか追究した。まず、妊娠母体の葉酸不足が、成熟後の産仔のエネルギー代謝異常に影響していたことについて、産仔におけるOCM関連遺伝子のDNAメチル化異常の関与を検証したが、母親の影響を受ける最終地点である離乳時と成熟後(3ヶ月齢)では、現在までに、OC以外に完全に一致する相関が得られていない。その原因として、母体のOCM関連栄養素の不足により、3ヶ月齢産仔では、脂肪肝、肝への炎症性細胞の浸潤が認められており、3ヶ月齢で認められる遺伝子変化が、それら病態を引き起こした結果を観察している可能性が考えられた。一方、令和4年度には、離乳時および3ヶ月齢における各種アミノ酸、脂肪酸の質量分析、フラックスアナライザーを用いた酸素消費量・エネルギー代謝測定の結果から、妊娠母体の葉酸不足が、成熟後の産仔においても、葉酸-メチオニン経路に影響し、脂質代謝を低下させていることを実証できたため、妊娠母体のOCM異常が、DNAメチル化異常以外のゲノムあるいはエピゲノム変化を誘導し、産仔の肥満およびエネルギー代謝異常を誘導していることは確実であり、妊娠母体のOCM異常が、仔の肥満を誘導している分子基盤の実証に近づいた。
2: おおむね順調に進展している
母体のOne carbon metabolism制御異常と産仔の肥満感受性上昇についての関係について分子基盤解明に向けて、各種解析により裏付けがとれた。さらに、成熟後産仔の肝組織において、妊娠母体のOCM栄養素不足が産仔の肥満以外にも顕著な肝病変を引き起こす可能性を見出し、そのメカニズムについても脂質代謝低下に起因することが示唆され、新たな展開を迎えた。これらのことから、おおむね順調に進展していると判断した。
1.妊娠母体のOCM異常が、産仔の葉酸-メチオニン経路、ならびに脂質代謝にどのように影響しているのか、主に離乳時の肝、白色脂肪に着目した証明を行う。また、そのメカニズムが、それら産仔の成熟後の脂肪、脂肪肝、肝内炎症に帰結するメカニズムを検証する。その際、DNAメチル化のみならず、他のエピゲノム、あるいはゲノム異常についても検討に入れる。2.肝OCの脂質代謝への関与の有無とそのメカニズムについて明確にする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Journal of Cell Science
巻: 135 ページ: jcs258584
10.1242/jcs.258584
糖尿病・内分泌代謝科
巻: 54 ページ: 1-8