研究課題/領域番号 |
20H03856
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤橋 浩太郎 東京大学, 医科学研究所, 特任教授 (50820354)
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研究分担者 |
落合 智子 (栗田智子) 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (20130594)
片岡 宏介 大阪歯科大学, 歯学部, 准教授 (50283792)
中橋 理佳 東京大学, 医科学研究所, 特任講師 (80391887)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 粘膜ワクチン / 歯周病 / 唾液IgA抗体 / アジュバント |
研究実績の概要 |
高齢者における歯周病罹患率の増加は、それに起因する動脈硬化の発症も増加させ、健康長寿社会の構築を妨げる要因となる。そこで、歯周病の予防による動脈硬化のリスクマネージメントのみならず、すでに発症している歯周病の軽減と動脈硬化の治療を目的とした、粘膜ダブルシグナルシステム(CpG ODN/pFL,Flt3リガンドDNA発現プラスミド)を用いた高齢者のための舌下ワクチンの開発を目的とする。また、粘膜ワクチンは抗原特異的粘膜SIgA抗体に加え、血清IgG抗体も誘導する。そこで、歯周病及び動脈硬化の予防と治療におけるOMP40特異的、唾液中SIgA、歯肉溝浸出液中IgG、血清中IgG, IgA抗体の役割を解明することを第2の目標とする。本年度は、ダブルシグナルシステム(CpG ODN 20 ug/ pFL 250 ug)と歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisの表面抗原であるOMP40(30 ug)からなる舌下ワクチンをC57BL/6マウス(雌)に1週おき4回投与し、OMP40特異的抗体価を測定し、その有効性を検証した。 舌下ワクチンにより十分なOMP40特異的、唾液中SIgA、血清中IgG抗体を誘導できることが明らかとなり、歯周病のみならず、動脈硬化の予防に有効な粘膜ワクチン候補が選定された。 これらは今後の本計画の展開に重要な基礎データであり研究の遂行の観点から意義がある。次に、舌下ワクチンを投与したマウスを用いてP. gingivalisによる感染実験を実施した。現在、歯周病の発症の予防効果について検証中であり、舌下ワクチンの歯周病予防効果について明らかにすることは、有効性を実証する上で大いに意義があり、重要課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、昨年4月に緊急事態宣言が発出された。これにより、新型コロナウイルス関連の研究以外は著しく制限され、本研究の開始に影響を与え、9月までの研究進捗が著しく遅れた。徐々に研究制限が解除されていく過程で、ダブルシグナルシステムとOMP40からなる舌下ワクチンの免疫を開始した。当初計画していた抗原量(10 ug/マウス)では十分なOMP40特異的免疫応答を誘導することができず、抗原量を30 ug/マウスに増量しC57BL/6マウス(雌)に1週おき4回投与した。最終免疫より1、2週間後に唾液、血清を採取しOMP40特異的IgA,IgG抗体価をELISAにて決定した。その結果、ワクチン投与群ではコントロール群に比べ唾液中SIgA、血清中IgG抗体が上昇していることが明らかになった。これらの結果はダブルシグナルシステムが粘膜アジュバントとして機能し、歯周病菌に対する特異抗体を誘導することを示唆している。事実、同様にP. gingivalisのfimA表面抗原とダブルシグナルシステムを用いた経鼻ワクチンを投与することによってfimA特異的抗体が誘導できることを報告した(Kataoka K, et al. Front. Immunol.2021.)。 次に、マウスに舌下ワクチンを投与し、最終免疫より1週間後にP. gingivalis (ATCC33277)を14日間、口腔内投与することで感染を実施した。感染から、30日後に歯周組織の炎症・歯槽骨吸収を測定し、歯周病の進行状態を評価する。現在、感染が終了し経過観察中である。 IgA抗体欠損による骨吸収への影響を非感染IgAKOマウスで検証した所、口腔内細菌叢の変化により、コントロールマウスに比べ骨吸収が進行していることが明らかになった(Chang E, et al, Inflamm Res. 2021)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で用いた舌下ワクチンによって歯周病が予防できるか、歯周組織の炎症・歯槽骨吸収を測定し評価する。また、破骨細胞の存在を歯肉組織のtartrate-resistant acid phosphate (TRAP)染色によって解析する。さらに同組織より歯肉細胞分離し、T,B細胞, DC, 単球の割合、破骨細胞の誘導に重要なRANKL、RANKの発現や免疫担当細胞が産生しているTh1, Th2, Th17、炎症性サイトカインをFACSにて解析する。さらに分離した歯肉細胞は培養し、上清中に分泌された炎症性サイトカインをELISA法にて解析する。同様の実験を老齢マウスを用いて行い、舌下ワクチンの有効性を検証する。さらにIgAKOまたはpIgRKOマウスモデル(若齢)を用いてIgA抗体の役割と歯肉浸出液中IgG抗体の役割についても明らかにする。 舌下ワクチン投与によって、高いOMP特異的抗体価を示した老齢・若齢マウスの血清をそれぞれプールし、IgG抗体、IgA抗体をカラム精製する。精製したそれぞれの抗体(100 ug)を2日おきに計6回、若齢ApoE-KOマウスに静脈投与する。初回投与の翌日より、P. gingivalis よる口腔内感染・骨吸収プロトコールを開始し最終感染より3週間後に動脈硬化発症の度合いを判定するコントロールとして非免疫マウスの血清より精製した抗体を用いる。
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