研究課題
現在進行形で,地球上の全ての人が「治療薬のない呼吸器感染症/肺炎」の恐ろしさと社会全体に及ぼす多大な悪影響を実感中である.本申請課題における肺炎は,肺炎球菌を原因とする肺炎であるが,人型コロナウイルス感染症と同様に,薬剤耐性菌の増加により難治化・重症化している(研究代表者らが,市中患者から分離した約2600株の肺炎球菌について解析したところ,国内外の既報通りペニシリン耐性菌は約40%であった.さらに,マクロライド耐性菌が80%を超えること,およびキノロン耐性を含む多剤耐性菌も散見されることが新たに明らかにした).そのため,日本政府・WHO等は,耐性菌による肺炎の制御を人類の最重要課題と定めている.申請者は,若手Aから発展させた5回の基盤Bで,好中球と病原細菌のせめぎ合いを独自に解析してきた.その結果,肺炎球菌だけが自己溶菌する細菌であり,溶菌で漏出する細菌分子を活用して免疫系を無力化し,組織傷害を果たすというin vitroでの知見を得た.本研究では,未だ詳細不明なin vivoにおける耐性肺炎球菌による肺炎の重症化機構を解析し,耐性菌による肺炎の治療基盤を構築するべく実験を進めている.具体的には,耐性肺炎球菌の肺感染マウス系を確立後,肺胞中の耐性菌とマウスの両分子群をiTRAQ-MS/MS法で網羅同定した後,耐性菌とマウスの両分子群の動態を多分子同時解析装置で詳細分析している.そして,肺炎の重症化に関与する分子を治療標的として選出し,萌芽研究のin vitro系で確立し,特許出願したDNA立体化技術を用い,in vivo系において耐性肺炎球菌の病原因子のみを特異的に制御する抗菌薬の開発を期すことを目指している.
2: おおむね順調に進展している
本研究は4ヵ年で計画しており,以下3点を達成目標としている.すなわち,(i) 耐性肺炎球菌の肺感染マウスから肺胞洗浄液を採取し,iTRAQ-MS/MS法にて耐性菌とマウスの両分子を網羅同定後,非感染マウスとの定量比較を行い,有意差を示す分子群を選出する.(ii) 続いて,選出した耐性肺炎球菌の耐性因子に特異結合するキューブ型DNA抗菌薬(萌芽研究にて確立した独自技術;本調書4頁に詳細記載)を作製し,マウスモデルにて治療効果を検証する.(iii) また,iTRAQ-MS/MS法にて同定した マウスのin vivo感染マーカーを特異的に抑制できる阻害剤をスクリーニグし,耐性菌を用いた肺炎マウスモデルにて治療効果を検証する.そして,令和2-3年度の各論研究として,(1) 耐性肺炎球菌による高齢マウスの肺感染モデルの確立.(2) 肺炎高齢マウスの肺胞洗浄液のiTRAQ-MS/MS解析.(3) 耐性肺炎球菌とマウスから網羅同定した分子間の相互作用解析.(4) 耐性肺炎球菌の病原分子候補の網羅解析を実施しており,中間成果の英語論文や学会発表も順調に発信できている.そのため,おおむね順調な進展と自己評価した.
申請調書に従い,令和2-3年度の各論研究として,(1) 耐性肺炎球菌による高齢マウスの肺感染モデルの確立.(2) 肺炎高齢マウスの肺胞洗浄液のiTRAQ-MS/MS解析.(3) 耐性肺炎球菌とマウスから網羅同定した分子間の相互作用解析.(4) 耐性肺炎球菌の病原分子候補の網羅解析を引き続き実施する.そして,当初計画以上の進展を果たせた場合は,次なる令和4-5年度の各論研究も前倒しで進行させる.具体的には,(5) マウスのin vivo感染マーカーの解析と各種阻害剤を用いた制御法の検索.(6) キューブ型DNA抗菌薬の作製.(7) 肺炎モデルマウスを用いた新規の肺炎制御薬の検索.である.また,本研究では代表者と3名の分担者が,それぞれ大学院生を育成しながら計画を推進する.耐性菌に関する感染症研究もその人材養成も,「薬剤耐性AMRアクションプラン」において日本政府が決定した優先政策であるため,教育貢献かつ社会貢献とそれぞれのニーズが高いと考えている.そして同大学院生のうち2名は,文部科学省事業「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」の新潟大学フェローシップ大学院生にも採択されたため(ボトムアップ型7名中の2名),同事業の推進も兼ねて人材育成型の研究を展開する予定である.
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 2件、 査読あり 15件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件) 図書 (5件)
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