研究課題/領域番号 |
20H03858
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
寺尾 豊 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50397717)
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研究分担者 |
中馬 吉郎 新潟大学, 自然科学系, 研究教授 (40372263)
土門 久哲 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00594350)
前川 知樹 新潟大学, 医歯学系, 研究教授 (50625168)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 |
研究実績の概要 |
誤嚥性肺炎に代表される肺炎は,薬剤耐性菌の増加により重症化している.日本政府・WHO等は,耐性菌による肺炎の制御を人類の最重要課題と定めている.申請者は,若手Aから発展させた5回の基盤Bで,好中球と病原細菌のせめぎ合いを独自に解析してきた.その結果,肺炎球菌だけが自己溶菌する細菌であり,溶菌で漏出する細菌分子を活用して免疫系を無力化し,組織傷害を果たすというin vitroでの知見を得た.本研究では,未だ詳細不明なin vivoにおける耐性肺炎球菌による肺炎の重症化機構を解析し,耐性菌による肺炎の治療基盤を構築する.具体的には,耐性肺炎球菌の肺感染マウス系を確立後,肺胞中の耐性菌とマウスの両分子群をiTRAQ-MS/MS法で網羅同定した後,耐性菌とマウスの両分子群の動態を多分子同時解析装置で詳細分析する.そして,肺炎の重症化に関与する分子を治療標的として選出し,萌芽研究のin vitro系で確立し,特許出願したDNA立体化技術を用い,in vivo系において耐性肺炎球菌の病原因子のみを特異的に制御する抗菌薬の開発を期す. 今年度は,耐性肺炎球菌の病原分子候補の網羅解析に注力した.すなわち,耐性菌の病原分子候補の組換えタンパクを現有機器のLuminex装置にて,多分子同時相互作用解析した.病原分子候補を96ウェルプレートに分注し,それぞれに好中球および肺胞上皮細胞株を添加した.続いて,Luminex装置にて,同一条件下でサイトカインおよび傷害され漏出するミトコンドリア等の内在タンパク質を同時定量し,有意なマウスのin vivo感染マーカーを決定を試みた.さらに,現有設備のBiacoreにて分子間相互作用解析およびWestern blot解析やELISA解析を行い,マウス組織に結合および分解する耐性肺炎球菌の病原分子群を選出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究は,申請調書で4ヵ年計画にて申請しており,以下3点を達成目標としている.すなわち,(1) 耐性肺炎球菌の肺感染マウスから肺胞洗浄液を採取し,iTRAQ-MS/MS法にて耐性菌とマウスの両分子を網羅同定後,非感染マウスとの定量比較を行い,有意差を示す分子群を選出する.(2) 続いて,選出した耐性肺炎球菌の耐性因子に特異結合するキューブ型DNA抗菌薬(萌芽研究にて確立した独自技術;本調書4頁に詳細記載)を作製し,マウスモデルにて治療効果を検証する.(3) また,iTRAQMS/MS法にて同定した マウスのin vivo感染マーカーを特異的に抑制できる阻害剤をスクリーニグし,耐性菌を用いた肺炎マウスモデルにて治療効果を検証する. そして,令和3年度までの達成目標の研究項目として,以下4つを申請調書で設定している.(1) 耐性肺炎球菌による高齢マウスの肺感染モデルの確立.(2) 肺炎高齢マウスの肺胞洗浄液のiTRAQ-MS/MS解析.(3)耐性肺炎球菌とマウスから網羅同定した分子間の相互作用解析.(4) 耐性肺炎球菌の病原分子候補の網羅解析.令和3年度は,上記4項目を申請計画通りに実施しており,中間成果の英語論文も順調に発信できている.そのため,おおむね順調な進展と自己評価した. また,本研究では代表者と3名の分担者が,それぞれ大学院生を育成しながら計画を推進している.耐性菌に関する感染症研究もその人材養成も,「薬剤耐性AMRアクションプラン」において日本政府が決定した優先政策であるため,教育貢献かつ社会貢献とそれぞれのニーズが高いと考えている.そして同大学院生のうち2名は,文部科学省「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」の新潟大学フェローシップ生にも採択されたため,同事業の人材育成についてもおおむね順調な進展と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
申請調書に従い,令和4-5年度の各論研究として,(1) マウスのin vivo感染マーカーの解析と各種阻害剤を用いた制御法の検索.(2) キューブ型DNA抗菌薬の作製.(3) 肺炎モデルマウスを用いた新規の肺炎制御薬の検索.の3項目を実施予定である.(2)では,代表者が遂行した萌芽研究において,細菌の特定分子に特異結合するDNA配列と1価陽イオン依存的に立方体構造へ変化するDNA配列を同定した研究成果を発展させる.そして,両DNA配列をタンデムに結合することで,細菌の特定分子の機能を構造障害させるin vitro実験を推進する.次いで,今年度までの解析で決定できた,耐性肺炎球菌の病原分子候補(PBP2’等)に結合するDNA配列をスクリーニグ後,立方体構造へ変化するDNA配列とアフィニティーカラム上で結合させ,“キューブ型DNA抗菌薬”候補とし,分離・精製する.耐性肺炎球菌への抗菌作用を測定するほか,Luminex解析系にてin vitroレベルで細胞への病原性を低下させるDNA配列をスクリーニングする. さらに,本研究において申請調書で掲げた大学院生の育成については,第二期の新潟大学フェローシップ(文部科学省「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」)および第二期の新潟大学フロントランナー(国立研究開発法人科学技術振興機構JST「次世代研究者挑戦的研究プログラム」)奨学制度の獲得も目指す.また,日本学術振興会の特別研究員採択も指導する.
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