研究課題/領域番号 |
20H03859
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
米田 俊之 大阪大学, 歯学研究科, 招へい教員 (80142313)
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研究分担者 |
奥井 達雄 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 准教授 (40610928)
波多 賢二 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (80444496)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | がん / 骨転移 / 乳酸 |
研究実績の概要 |
解糖系は嫌気的環境下で見られる非効率的なエネルギー代謝であるが、がん細胞では好気的環境下においても解糖系が亢進しており、その結果大量の乳酸が産生される。近年,乳酸の受容体としてG-タンパク質共役型受容体GPR81が同定されたが、腫瘍微小環境に豊富に存在する乳酸を感知したGPR81が、がん細胞の増殖や転移においてどのような役割を担っているかは不明である。 乳がんの増殖および骨転移におけるGPR81の役割を明らかにするために、乳がん細胞株MDA-231,MCF7および正常乳腺上皮細胞株MCF-10AにおけるGPR81発現をウエスタンブロッティングによって検討した結果,乳がん細胞においてGPR81の強い発現を認めた。また、乳がん細胞はMCT4も高発現しており、乳酸シャトルが亢進していることが示唆された。 乳がん細胞の増殖,転移におけるGPR81の役割を検討するために,GPR81遺伝子をノックダウンしたshGPR81細胞を作製した。shGPR81細胞はshNT細胞に比較してMCT1,MCT4の発現が低下しており、また培養液中に分泌される乳酸の濃度も減少していたことから,乳酸シャトルが低下していることが明らかとなった。次に、shGPR81細胞およびshNT細胞を乳腺脂肪内に接種し腫瘍形成能を検討した結果,shGPR81細胞はshNT細胞に比較して腫瘍形成頻度および腫瘍体積が顕著に低下していた。さらに、脛骨骨髄内接種モデルにおいて、shGPR81細胞は骨内での乳がん細胞の増大とそれに伴う骨破壊が減少していることが明らかとなった。 以上の結果より、がん細胞が発現する乳酸受容体GPR81は乳酸シャトルを制御することによりがん細胞の増殖に関与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、乳酸シャトルにより細胞外へと分泌された乳酸を検知する乳酸感受性受容体GPR81に焦点を置き、がん細胞の増殖ならびに骨転移における重要性を明らかにすることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、薬剤あるいは遺伝子ノックダウンにより乳酸シャトルを阻害することで、がんの骨転移、骨からの二次転移、骨痛誘発における乳酸シャトルの役割を検討する。乳酸を取り込むMCT1 (AZD3965)、乳酸を放出するMCT4 (CHC)、ならびにMCT1/MCT4の両者(syrosingopine)の阻害剤を用いて乳酸シャトル阻害の影響をin vitroとex vivoで検討する。またMCT1およびMCT4遺伝子をshRNAによりノックダウンまたはゲノム編集技術によりノックアウトした乳がん細胞を作製し、その影響をin vitroとex vivoで検討する。ノックアウト細胞は簡便・高効率なノックインを可能にするゲノム編集技術であるViking法(Sawatsubashi et al, 2018)を応用して作製する。阻害効果の最も強い薬剤およびノックダウン細胞orノックアウト細胞を用いて、脛骨注入モデルにおいて、骨内でのがんの増大、骨破壊、骨から肺への二次転移、ならびに骨痛に対する影響を検討する。 乳酸シャトルの阻害によるがん細胞の細胞特性変化を分子レベルで解明するために、MCT1、MCT4遺伝子のノックダウンorノックアウト乳がん細胞を作製し各々の細胞からRNAを回収し、RNA-seqにより遺伝子発現の変化を検討する。さらに、変動のあった遺伝子群のGO解析を行うことで、乳酸シャトルの阻害によりがん細胞の代謝がどのように変化するかを検討する予定である。
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