研究課題/領域番号 |
20H03867
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
古市 保志 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (80305143)
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研究分担者 |
桃沢 幸秀 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (40708583)
清水 伸太郎 北海道医療大学, 歯学部, 助教 (80734235)
松下 健二 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 口腔疾患研究部, 部長 (90253898)
長澤 敏行 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (90262203)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 老化 / 歯周組織 |
研究実績の概要 |
口腔の老化に伴う咀嚼機能や摂食・嚥下機能の低下は栄養障害や転倒リスクの増加に繋がるため、全身のフレイルに多大な影響を及ぼす。したがって、口腔の老化を制御し口腔機能を維持あるいは回復することは、高齢者の健康を増進し健康寿命を延伸するための重要な方策となりえる。歯周組織の老化に伴う歯周炎の感受性の増加については、高齢者の歯周炎患者で歯の喪失が増大することから予測はされているものの、その実際とメカニズムについては様々な観点からの検証が必要である。今回の研究課題では、歯肉上皮組織の細胞間接着因子の発現が老化の影響を受け上皮バリアとしての機能が低下しているのではないかとの仮説を立てて、in vitro 研究によって検証を行うこととした。上皮細胞に過酸化水素水による刺激を与えて細胞老化を誘導し、その際の接着因子の発現を観察した。また抗酸化作用を有する物質を同実験系に用いることで、その実験系の妥当性を検索した。その結果、400μMの過酸化水素による刺激が細胞毒性を発現せずに老化を誘導することを老化関連遺伝子とそのタンパク発現によって確認した。また、同刺激によって上皮細胞の細胞間接着因子の発現に変化を生じ、その発現は抗酸化作用を有するFesetinの添加によって復元されることを明らかにした。 本研究課題のもう一つのテーマであるGPR141のSNPの歯周炎へのリスクファクターとしての関与については、本学の大学病院患者の歯周炎の状態、SNPおよび喫煙の相関について解析を行った。未発表ではあるが、結果、GPR141のSNPと歯周炎の病態の相関は、血中コチニン濃度によって増強されていることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年に発生した新型コロナ感染症の蔓延によって、研究活動に制限をかけざるを得ない状況であったことから、老化誘導細胞実験モデルの確立が遅延していた。2021年度に入り、状況の変化に合わせて実験を再開した。2021年には、複数回の学会発表を行い、国際誌への論文発表に至っている。また、確立された老化誘導細胞実験モデルによって歯周病原菌による刺激の細胞間接着因子の発現への老化の関わりについて解析も進み、近日中に論文投稿予定である。さらに、2021年には、老齢マウスを用いた実験の実施も可能となり、研究課題の遂行が加速された。現在、若齢と老齢マウスに歯周病原菌を投与する実験を修了したところであり、今後、回収された各サンプルを解析することによって、発症と進行における加齢と感染の関連性について明らかにしてゆく予定である。 SNP等の遺伝子因子と歯周炎および老化との関連についても2020年度は様々な制限により遅延していた。しかしながら、臨床データの解析を2021年度の再開し、結果を得ている。今後、それらの解析結果を用いて in vitro や動物実験を行い本研究課題の成果を上げるべく取り組んでゆく。
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今後の研究の推進方策 |
老化誘導口腔上皮細胞モデルでの細胞接着因子の発現とそれへの歯周病原菌の影響に関する実験結果については、近日中に論文投稿予定である。また、老齢マウスに歯周病原菌を投与した実験についても若齢マウスへも同投与を併用して実験を行い、両者の屠殺・サンプル採取まで終了している。今後は、両者のマウスについて組織病理学的、免疫組織学的、ゲノムワイド的な各種解析を行うことによって、様々な観点から歯周病原菌の存在による歯周組織への影響、および老化のそれらの影響への関与について明らかにしてゆく。尚、同実験において採取された腸内細菌及び腸管サンプルについては、メタゲノム解析と細胞間接着因子に関する解析を行い、その結果を論文投稿している。 歯周病進展への遺伝子要因の関りについては、Biobank Japan のデータを用いて老化関連SNPと歯周炎との関連を解析中である。また, GPR141については、歯周炎のリスクファクターである喫煙との関連に関する機能解析を行う。また、Biobank Japan のデータを用いた年齢による層別解析により得られたデータの解析を進め、歯周炎における老化関連遺伝子の関与を検索する。 これらの実験によって歯周病の発症と進行における老化関連遺伝子と歯周病原菌の関与を解析し、総合的な考察を行う。また、老齢マウスを用いた実験で得られた口腔内及び全身の様々なサンプルについてSASP関連タンパクや老化に関するにタンパクなどの解析によって、歯周病の加齢に対する影響、およびその影響による全身疾患感受性への関与を明らかにしてゆく。
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