研究課題
in vivoマウス実験によりビタミンDシグナルの過剰に起因する骨形成不全および軟組織の石灰化亢進を見出した。硬組織と軟組織では石灰化度の進行に関し、活性化ビタミンDは真逆の方向に働く。この現象は石灰化パラドクスと呼ばれる。ビタミンD過剰症で認められる石灰化パラドクスにおける骨芽細胞内のVDRの役割を明らかにした。in vivo骨芽細胞が活性型ビタミンD応答性に放出する骨再生抑制因子および動脈石灰化促進因子の同定のための実験を行った。その結果、ビタミンDの過剰とWntシグナル伝達破綻の関連が示唆された。そこで、 Wntシグナルの正の調節因子(骨再生促進因子)および負の調節因子の同定のためのCrispr-A, Crispr-KOライブラリーの調製を行った。遺伝子発現オンシステムCrispr-A と遺伝子発現オフシステムCrispr-KO により発現上昇または抑制した各遺伝子機能を、代表者が開発したWntシグナル活性依存性細胞死回避レポーターシステムを用いて評価した。具体的には、Crispr-構成要素とWntシグナル活性レポーターBAR (betacatenin-activated reporter)共発現モノクローナル骨芽細胞前駆細胞を用いた。また、Wnt3a処理したマウス骨髄間葉細胞株ST2細胞をリン酸化タンパク質量分析に供し、Wntシグナルによるタンパク質リン酸化の変化を解析した。5つのBiological replicateにおいて共通にTGFbetaファミリー分子のリン酸化亢進が認められた。さらに、骨髄間葉細胞の骨芽細胞分化および脂肪細胞分化過程の双方において、このTGFbetaファミリー分子のmRNA発現変化を解析した。今後は、リン酸化部位変異タンパクを様々な未分化間葉系細胞に過剰発現させることで、同定したリン酸化の生物学的意義を解明する予定である。
2: おおむね順調に進展している
ビタミンDのシグナルの異常活性化に起因する骨形成不全および軟組織石灰化における骨芽細胞内のVDRの役割を明らかにした。特に骨吸収の異常亢進および骨形成の亢進に伴う骨形成低下、骨吸収亢進、血清カルシウム値の上昇、血清FGF23値の数千倍レベルの上昇を見出し、これらの作用において骨芽細胞のVDRが不可欠であることを明らかにした。また、血清カルシウム値の上昇に、FGF23による腎におけるカルシウム再吸収の亢進のほかWntシグナルの亢進も重要であることを明らかにした。この知見をもとに、ビタミンDシグナルの破綻による骨形成抑制機構について新たな制御機構を発見できた。また、Wntシグナル下流にある骨形成調節因子を、リン酸化タンパクLC-MS/MSによるリン酸化プロテオーム解析にて探索した。Five biological replicates前骨芽細胞を用いた実験により、TGFbetaファミリー分子の一つをリン酸化標的タンパク質として発見した。現在、このTGFbetaファミリー分子の発現および機能解析を進行中である。また、骨芽細胞特異的Wntシグナル因子遺伝子欠損マウスと対照マウスの骨組織で発現差異のあった分泌性因子を見出した。
ビタミンDシグナルの過剰と腎臓病においてビタミンDやPTHの分泌制御などは真逆であるにも関わらず、石灰化パラドクスという共通現象が認められる。おそらく共通のメカニズムが存在すると予想する。そこで、ビタミンD過剰症と種々の腎臓病モデルを作製し、これらの原因が異なる病態モデルを用いて石灰化パラドクスにおける骨芽細胞内のVDRの役割を明らかにする。特に動脈石灰化や脂質および糖代謝、骨形成・骨吸収の調節における骨芽細胞内のVDRの役割に着目して、骨芽細胞特異的VDR欠損マウスを用いて研究を行う。具体的には、骨芽細胞が存在する骨のみならず、異常が生じた遠隔臓器のmRNA発現プロファイルをRNAシーケンシングにより作成する。また、Wntシグナル受容体14種類の中で、成体における骨形成と脂質代謝の双方において非常に重要な分子を見出した。本研究室で作製した当該分子遺伝子欠損マウスは、骨形成の顕著な低下を示すとともにメタボリック症候群を発症した。骨芽細胞特異的当該遺伝子欠損マウスと対照マウスの骨組織で発現差異のあった分泌性因子を見出している。これらについては、骨髄間葉細胞で過剰発現したり、ノックアウトすることで、機能解析を行う。
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