研究課題
昨年度は、α線の飛跡を検出できるバリオトラック(CR-39)を用いて、in vitroでの細胞培養条件下、2 μCi Ra-224のシードを底面に固定し、24 時間留置後、アルカリ処理によってエッチピットを検出した。1個のエッチピットは、1個のα粒子の飛跡を表している。シードからの距離とエッチピットの密度分布を解析すると、1 mm程度まで顕著に高い密度を示したが、それ以上離れると、急激に密度は低下した。このことは、Ra-224から生成される娘核種が、Raから遊離し、培養液中を対流、拡散することによってα線を放出し、それがCR-39によって検出されたと考えられる。現在我々は、イスラエルでの本治療法の開発者の一人であるDr Araziに、培養液中でのRa-224娘核種の対流を含めた拡散によってα線が放出されるシュミレーションを、CR-39に関する研究の第一人者であるQSTの小平博士に、エッチピットの形状から正確な吸収線量を求める手法を検討頂いている。また、得られたα粒子密度と、これまでに得られているγH2AXの分布密度とFucciによるG2アレストを引き起こす範囲との対応を求め、吸収線量の推定に利用する。さらに我々は、Ra-224からのα線による線量細胞生存率曲線を求めるために、培養液中にseedを6 h留置して、放出される娘核種を含むcondition medium(CM)を調整し、種々の希釈したCMに24 h細胞を暴露させ、コロニーアッセイにより、生存率を求めた。生存率を対数プロットすると、生存率は直線的に低下することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
α線の飛跡を検出できるバリオトラック(CR-39)というプラスチック素材があることを知り、in vitroでの条件下で、初めてRa-224娘核種が拡散してそこから放出されるα線を検出し、その周囲に存在するがん細胞のDNA損傷応答との位置関係を明らかにすることができた。また、Ra-224シードを培養液中に留置することで、娘核種を放出させるという発想によって、容易に線量細胞生存率曲線を得ることができたのは大きな進歩であった。一方、組織中でのα線分布については、検討を進めているが、エッチピットからの線量推定が大きな鍵となる。
物理学的アプローチにおいては、組織切片を用いた解析について継続し、組織内での線量分布を求める予定である。また、生物学的アプローチにおいては、物理学的アプローチにおいて作製した切片を用いて、DNA損傷やG2停止と線源からの距離との関係の解析を継続するとともに、組織中で娘核種拡散に影響を与える因子の解析についても、継続して実験を実施する。エッチピットからの吸収線量が推定できれば、線量生存率曲線を実際の吸収線量を横軸とした曲線が得られることになり、有用な情報となりうる。
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頭頚部癌
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