研究課題/領域番号 |
20H03913
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
和足 孝之 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 准教授 (00792037)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 診断エラー / 患者安全 / 医療の質 / 診断学 / 医療過誤 / 医療訴訟 |
研究実績の概要 |
米国では診断エラーは年間4-12万人が死亡し、総医療費の約30%の損失があると試算されており、医療安全上の最重要課題となっている。しかし 我が国では診断エラーの研究はアンチャッブルな領域として殆ど研究がなされてこなかった。我々は我が国で初めて医療訴訟の判例を用いて医師の診断エラーの関連要因を明らかにした。これを基盤研究として発展させるべく、現在米国ミシガン大学およびハーバード大学ともに、診断エラー研究やDiagnostic Excellenceにおける医療の質向上のための提案を作成に取り掛かっている。当該年度は訴訟結果に影響を与える要因を、システムエラーと診断エラー、環境要因、初期診断の違いに焦点を当てた比較分析により特定することができた。結果として内科医の医療訴訟で敗訴する主な原因は診断エラーが最も多かった(213件、54%)。医療損失の原因を調整した結果、診断エラーは6.26倍、夜間でのエラーは2.49、初診時に悪性新生物の場合は3.44倍であり、我が国で初めて内科医の敗訴リスクと病院管理学における対策を提言する研究を発表することできた。それ以外にも、特に診断エラーに関する認知バイアスの探索研究、認知バイアスが惹起されやすい状況や労働環境、またそれらのインパクトの強さ等を複数の論文として発表した。結果として英語論文として13本(診断エラーケースレポート4本含む)並びに、国際診断エラー学会で3演題発表することができた。尚、そのうち1演題(Watari T, et al.A qualitative root cause analysis of barriers for diagnostic error reduction in Japan)はBest of best abstractに選出され、翌年米国専門雑誌Diagnosisで原著論文として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進行が遅れている理由として、主にCOVID19パンデミックの影響がある。 第一に、2020年に発生したCOVID-19パンデミックにより、VISA発行の制限、及び渡航制限が敷かれていた為に相対的に共同研究の開始が遅れた。 第二に本研究は実地調査が必要であったが、感染対策と院内での COVID-19発生から実地調査が困難となり、2022年12月まで継続して外部研究者の病棟調査延期の方針対がとられていた。 第三に、研究責任者が2021年4月から島根大学総合診療医センターの責任者(准教授職)を担うことになりマネージメント業務も並行して行うことになった。 しかし前述したように、研究業務の効率化と実地調査ができない期間は実施する必要があった類縁研究を行うことができたために結果的には多くの研究成果を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで主流となっていた診断の負の側面のみを扱う診断エラー学研究から2021年にJAMAでの特集として発表されたDiagnostci Excellence(卓越した診断)研究へ研究領域の大きな転換があった。最終年度は二カ国間共同研究の集大成として、時流に先駆けて日米両国の共同研究者達と卓越した診断研究へ移行することに合意した。卓越した診断研究は多くが診断エラー学とオーバーラップするが、エラーに関連するものだけでなく診断に関わるすべての要因が交絡する医療の質領域の重要な研究対象である。それには医師だけではなく、患者本人、家族、コメディカルスタッフ含めて診断プロセスに関わるすべての関連要因を分析テーマとする。その中で、我々は特にこれまでの診断エラー要因の分析とシステムエラーの要因分析を基盤に、どのようにすれば診断の質が向上していくか研究を継続していく。これは、我が国固有の問題である診療科の偏在や、医療政策、医学教育上の改善の方略を見出し、診断の質を保証する診断プロセスの標準化に資する研究へ発展させることを狙うものである。
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