研究実績の概要 |
診断エラーとは診断の異なり(Wrong)、診断の見逃し(Miss)、診断の遅れ(Delay)あるいはそれらの重複を意味する。患者・医療者の双方で医学的・経済的損失が甚大であり、近年公衆衛生上の最重要課題とされるが未だその実態、損失、原因、対策等のエビデンスの構築は不十分だ。 近年、米国では診断エラーにより年間約4-8万人の死亡者数と総医療費の約20%の損失が見積もられ(IOM, 2015)、世界保健機関(WHO)やアメリカ医療研究品質局(AHRQ)は診断エラーを人類が解決すべき公衆衛生上の最重要課題と設定した。これまで国内外の診断エラー研究はa)電子カルテ情報からの診断エラー症例の抽出、b)医療訴訟判例からの抽出、c)インシデントレポートからの抽出、d)医療事故調査報告からの抽出、e)医師自らのエラー症例の省察等を用いる等の、医療者・医療施設側の視点で行われたものばかりであった。申請者は医師の診断エラー省察研究(n=687症例)の分析や医療訴訟研究(n=3430判例)を実施し、様々な角度から診断エラーの実態や関連要因等を明らかにしてきた。具体的には本邦の内科医の診断エラー症例の分析では一般外来(35%)と救急外来(31%)が特に多く、診断的不確実性が高い環境や夜勤帯や祝日など医療資源が限られた状況では有意に診断エラーが発生しやすく (Watari T, Gupta A. Internal Med, 2023; Watari T. Internal Med, 2021)、さらに医療訴訟では一般内科医と一般外科医、救急外来や初診外来での診療 は特に診断エラー訴訟に対してリスクが高く、有意に医療者側の敗訴と賠償金支払いの増加(中央値3236.6万円)と相関している等の関連要因や実態を明らかにした(論文多数)。
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