研究課題/領域番号 |
20H03926
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
細川 敏幸 北海道大学, 高等教育推進機構, 教授 (00157025)
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研究分担者 |
斎藤 健 北海道大学, 保健科学研究院, 特任教授 (40153811)
佐藤 伸 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (40310099)
向井 友花 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 准教授 (60331211)
藏崎 正明 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特任准教授 (80161727)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリフェノール / 抗酸化作用 / プロオキシダント作用 / ガン細胞 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
近年、ポリフェノール類が未分化細胞であるガン細胞等で遺伝子に定められた細胞死・アポトーシスを誘導することが報告されている。通常、抗アポトーシス作用を示すポリフェノールが、何故ガン細胞でアポトーシスを誘導するのかに関する詳細な機構は未だ不明である。本研究では、ポリフェノール類による抗ガン作用がどのような機構によって起こるのかを正常細胞と比較することで解明することを目的とした。本研究の達成により、植物成分であるポリフェノール類により負担の少ない抗ガン剤の開発が期待される。 上記の目的のもと、ポリフェノールとしてフラボノイド系からエピガロカテキンガレート、スチルベン系からレスベラトロールを選択し、ヒト肝細胞癌由来細胞であるHepG2、ヒト結腸癌由来細胞Caco-2細胞に様々な濃度範囲で曝露すると濃度依存的に細胞死が増加し、細胞毒性の指標である培地中乳酸脱水素酵素量も有意に増加した。細胞内酸化状態の指標である還元型グルタチオンの量はポリフェノール投与量増加と共に有意に減少し、グルタチオン還元酵素は還元型グルタチオンを増加させるため有意に増加していた。ポリフェノール曝露細胞より抽出されたDNAはラダー状を示し、p53および活性型キャスペース3および7の量が有意に増加していた。さらにAnnexin Vを用いたフローサイトメトリー、mTor、活性型(リン酸化)mTor、Akt、活性型Akt、NFκB、Erk、活性型Erk量測定のためウェスタンブロット法などを行った。その結果、低濃度(マイクロモルオーダー)のエピガロカテキンガレートあるいはレスベラトロールの曝露でHepG2細胞およびCaco-2細胞にオートファジーを介したアポトーシスを誘導することが確認できた。一方、正常細胞としてHuvec細胞を用いた予備的検討では同じ量のポリフェノールで細胞死は確認できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の実験計画として ポリフェノール類を3種のガン細胞に6段階程度の異なった濃度で投与し、細胞死を誘導することを確認し、その効果に差があるか否かを検討した。また、その細胞死がアポトーシスか否かをAnnexin Vを用いたフローサイトメトリーで確認した。その細胞死誘導経路をウェスタンブロティング法等で調べた。また細胞死誘導条件での酸化状態と代謝酵素量の変化も併せて調べた。予定の実験内容はほぼ達成している。 また、正常細胞にガン細胞で細胞死を誘導する量のポリフェノール類を与えて、細胞死が起きるか否かを調べることを計画していたが、これは予備的にではあるがHuvec細胞を用いて着手し、ポリフェノールがHuvec細胞には細胞死を引き起こさないことを確かめている。 抗ガン活性をMTTアッセイで抗ガン剤のシスプラチンをポジティブコントロールとして行う系もすでに確立済みである。担癌動物作製に関してのみ、やや進行が遅れているがガン細胞におけるポリフェノール類の細胞死誘導機構の解明が順調に進行したため、本年度にこの部分の遅れは解消される見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果として、ガン細胞におけるポリフェノールの抗がん作用が期待通りに明確に確認でき、その細胞死の機構がオートファジー経路の因子が活性化されることで、最終的にアポトーシスが誘導されていることが明らかにされた。その知見を基に本年度は本格的に正常細胞においてポリフェノール類がどのような作用を及ぼすのかを明確にするため、以下の実験を行う。 ① ヒトの正常細胞にそのまま、あるいは酸化ストレスを与えた条件下でポリフェノール類を曝露し、ポリフェノール類が細胞死を誘導しない、あるいは酸化ストレスを緩和し細胞の恒常性を維持する働きがあることを明らかにする。 ② その細胞死緩和機構をウェスタンブロッティング法およびリアルタイムPCR法等を用いて明らかにし、ガン細胞との違いを明確にする。 ③ 担癌ラットを用いて、②で確認した機構をポリフェノール類の投与で検証する。 ガン細胞と正常細胞の組み合わせについては昨年度、肝細胞癌であるHepG2細胞、ヒト結腸上皮細胞であるcaco-2細胞を用いたので、本年度は正常肝細胞及び結腸細胞を用いる。本年度においては、上記のポリフェノール類を2種の肝及び結腸の正常細胞に曝露し、細胞毒性を検証し、あわせて過酸化水素などを暴露した細胞にもポリフェノール類を投与し、その抗酸化作用の有無を確認する。その酸化ストレスが改善する様子をAnnexin Vを用いたフローサイトメトリーで確認し、細胞死改善効果の機構をウェスタンブロティング法で明らかにする。また、細胞死誘導条件での活性酸素種量と代謝酵素量の変化も併せて調べる。以上の実験から、正常細胞とガン細胞におけるポリフェノール類の挙動の違いを明確にする。また、担癌動物作成を引き続き試みる。
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